LGBT取り組みの第一歩として、社員向けの研修を実施する企業は多いです。外部講師による研修を実施するケースもありますが、社内にしっかり話せる当事者がいる場合に、その人に講師を頼んで研修を実施するケースもあります。

今回は、自社の新入社員研修で、講師を担当しているゲイの当事者(Fさん)のお話をご紹介します。

私は新卒で入社して5年目の27歳です。
現職では、ちょうど私が入社した5年くらい前からLGBTの取り組みが始まり、研修などもいろいろ実施してきています。管理職研修とか経営層向けの研修は定期的に外部講師をよんで研修を実施していますが、新入社員向け研修は社内の講師でLGBTについても話をしています。

私は入社時からゲイであることをオープンにして働いています。周りから何か言われることもなく普通に働けています。

オープンにしているということもあり、3年前から新入社員研修のダイバーシティ研修の中のLGBTパートについて講師を任されるようになりました。
他人前で話すことも好きなので、初めは研修もあまり大事に捉えていなかったのですが、実際に講師として話をしてみていくつか気づきがありました。

まずは、私自身はLGBTの当事者ではあるけれど、LGBTのことがわかるわけではないということです。
研修の最後に質疑応答があり、そこではトイレや更衣室の話、あるいはそれに関連する社会のニュースなどについても聞かれたことがあります。

正直、私自身はトイレに悩んだ経験がないので、あくまでトランスジェンダーの人の気持ちを想像して話すことしかできません。
身の回りにもゲイの知り合いやレズビアンの知り合いはたくさんいて、トランスジェンダーの人にも会ったことはありますが、それほどよく知っているわけではないです。

わかってはいたことですが、私はLGBT当事者だけど、ゲイの立場でしかリアルな話はできないというのを感じました。

あと、これも質疑応答で感じたのですが、研修受講者のみなさんがとても言葉を選んでいる感じを強く受けました。傷つけちゃいけないという優しい気持ちからなんだとは思うのですが、かなり婉曲的な表現をされたり、場合によっては聞くこと自体を躊躇って聞かないケースもあるのではないかと思ました。

お互いに理解を深めることが大事なので、私の場合は揶揄したり嘲笑したりする気持ちでなければ、そんなに気を遣わずに、ストレートに聞いてもらってもいいかなと思います。

私はLGBT当事者として研修講師をしていて、LGBTのことを知ってほしいというのはもちろん、あるのですが、一方でLGBTといっても特別な存在ではないという想いもあります。

LGBTというのは私自身の属性の一部であって、それ以外の部分もたくさんあります。だからこそ、LGBTという部分だけでなく、自分自身を知ってほしいという想いで話をするようにしています。

Fさんは高校時代から友人や家族にもカミングアウトをしており、また周りも理解してくれて支えてくれる人が多かったそうです。Fさんのように周囲に広くオープンにしているゲイの人は多くはありませんが、オープンにしているからこその働きやすさと働きにくさがあると話してくれました。

Fさんは、非当事者の人の気持ちは分からない部分があるので、研修講師をするうえでも、もっといろんな人の考えを知りたいともおっしゃっていました。