『LGBT法律相談対応ガイド』
法律の専門家である東京弁護士会LGBT法務研究部が執筆編集した書籍です。
家庭での課題、職場での課題、社会一般での課題と幅広い分野を扱っています。
本書は2016年に初版が刊行され、その後の社会の変化や裁判事例などを踏まえて2020年12月に改訂版として新たに刊行されたものです。
LGBTの課題は法律で解決できない部分も多くありますが、企業の、特に法務部にはコンプライアンスの視点はとても大切なので、おススメの一冊です。
書籍概要
【目次】
第1章 LGBTの理解
1 性の多様性について
2 LGBTの人口
3 LGBTが抱える問題
第2章 現状と取組み
1 LGBTをめぐる国際的動向
2 国の取組み
3 地方自治体の取組み
4 企業での取組み
第3章 LGBTに関わる諸問題(事例編)
1 家事
2 労働
3 その他一般民事
4 掲示
5 在留資格
第1章、第2章はいわゆる基礎知識部分になります。
社会の状況などは執筆された当時から変わってきている部分はありますが、概括的に把握するために必要十分な内容が書かれています。
第3章では実務的に課題になりやすい事例をQ&A形式で紹介しています。
特に「労働」編は、企業の法務担当者には参考になる考え方が多数紹介されています。
印象的なコンテンツ
『Q35 企業がLGBT問題に取り組むことにはどのような意義がありますか。』(P77)
企業がLGBTの取り組みを進める際に、具体的な取り組み項目以上に、取り組む目的や意義が大切になります。
本書では人権問題が+経済的利益(副次効果)と書かれています。ここに書かれていることに加えて、ダイバーシティ&インクルージョンの推進という目的を掲げているケースもかなり多いと思います。
『Q37 法令に対する企業の取組みとして、具体的にどのようなことが求められていますか?』(P81)
LGBTに関連する法令として、「性同一性障害の特例法」「男女雇用機会均等法」「労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」の説明が書かれています。
それに追加して2023年に成立した「LGBT理解増進法」も今後は対象になってきます。
『Q43 採用活動において(中略)企業が行うべき取組みにはどのようなものがありますか。』(P99)
差別を行わないという表明、採用担当者面接官への研修、エントリーシートや男女別説明会の見直しなどが提案されています。
実務的には、就職活動において悩むことはLGBTといっても人それぞれなので、必要な取り組みを明確に示すことは難しいですが、本書では比較的幅広く当てはまる対応策を説明しており、わかりやすいです。
NijiリクルーティングのLGBT就活生の体験記事も紹介されています。
『トランスジェンダーの労働者から、トイレや更衣室等について、こころの性に適合する設備を使用したいという申入れがあった場合、会社としてどのように対応したらよいでしょうか?』(P201)
まだ本書執筆時点では最高裁の判断がでておりませんが、経産省のトランスジェンダー職員の訴訟についても詳細な説明がされています。
本書では、『会社として難しい判断を迫られる。十分に協議をし、真摯に対応することが大切』という考えが示されています。
これもケースバイケースなので、適切な対応方法が一つには決められないので企業の担当者としては規程やマニュアルにしづらく対応しにくい部分はあるかと思いますが、最高裁判決がでた現時点でも、同じような考えになるのかと思います。
『同性パートナーのいる従業員が、法定外福利厚生制度の利用を求めたところ、会社は(中略)対象としないと対応しました。どのような問題がありますか?』(P217)
回答としては『現状においては、違法とまでは解されないものと考えられます』としています。
ただし、社会の状況変化や従業員の労働意欲や帰属意識を考えるとできるだけ対応をしたほうが良いとしています。導入にあたっての方策についても、他社事例が簡単に紹介されています。
感じたこと
LGBTの法的な解釈に関しては、まだ判例が少なく、裁判官による異なる判断もあり、また新たな法律ができるなど、流動的な状況です。
本書では、職場における法的な課題について、いろいろな事例(採用の制限や取り消し、採用後の異動、ハラスメントなど)をとりあげて、考察を加えています。
正解を知るためというより、自社での対応を考える上での参考意見として読み込むという使い方がおススメです。