2023年はLGBTに関する大きな出来事がいくつもある変化の大きな年でした。
いろいろな出来事の中で企業の人事・ダイバーシティ推進担当者向けにいくつかピックアップして、2023年を振り返ります。
■『性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(通称:LGBT理解増進法)』が2023年6月に成立
今年最大の話題は、LGBT理解増進法が成立したことです。いろんな立場の人から反対があり、賛成している人より反対者のほうが多いようにも感じる中、それでも成立しました。
内容としては、企業は従業員向けに
- 研修やeラーニングなどの啓発活動
- パートナーシップ制度のような就業環境の整備
- 相談窓口の設置
などが求められています。
努力義務を定めたものとはいえ、法律で決まったので、企業としてはコンプライアンスの観点からできるだけ取り組むことが求められています。
※詳細はLGBT理解増進法成立。企業のとるべき対応は?
■トランスジェンダーの職場トイレの使用制限の是非に関する最高裁判決(2023年7月)
経産省のトランスジェンダー女性の職場でのトイレ使用に対して経産省(人事院)が制限をかけることの是非について、数年前から争われてきましたが、今回最高裁判決により、使用制限は違法という最終判断が示されました。
判決の一番のポイントは、トランスジェンダー(性同一性障害)のトイレ使用は、一律に肯定されたり否定されたりするものではなく、ケースバイケースの判断となるということです。
すでに、そのような対応をとれている企業や現場もすくなからずありますが、企業全体の取り組みとしてどうするか、と考えたときに戸籍性主義ですべてを取り扱う企業も少なくないので、その場合にはコンプライアンス違反となる可能性があるので注意が必要です。
※詳細は最高裁判決から考える。トランスジェンダーの職場のトイレ使用
■性同一性障害の性別移行に関する要件について、最高裁判決(2023年10月)
『性同一性障害の特例法』により戸籍上の性別移行をするためには5つの要件が定められています。
その中に生殖腺がないことという要件があるのですが、これが人権侵害ということで、この特例法が憲法違反で見直しが必要という判断が示されました。
これにより、性別適合手術を経ずに戸籍の性別を移行することが可能になる人が誕生しました。
まだ外観要件という要件が残っているので、少なくともトランスジェンダー女性は手術が必須ですが、これに関しても2024年以降に憲法違反の判断が示される可能性も十分あります。
これにより、身体的性別と戸籍上の性別が一致していないというケースが生じるため、性同一性障害特例法だけでなく、民法などの関連する法律の見直しや、“母”“父”などの言葉の使い方、公衆浴場、トイレをはじめとする男女で区分されたスペースの適切な利用方法の再検討など、社会全体での見直しが必要になります。
社会全体の合意形成をみつつ、企業として、特に顧客対応の部分での対応が求められるケースがでてくると思われます。
※詳細は性別移行に関する最高裁判決を分かりやすく解説
■その他
・自治体のパートナーシップ制度
パートナーシップ制度導入自治体数が2023年末時点で350を超え、カバー人口は約1億人となりました。2015年にスタートしたこの制度が8年間で日本中の多くの地域で“当たり前”になってきました。
・PRIDE指標2023
今年から有料化され、審査ハードルもあがりましたが、応募企業数は昨年並みの398社となり、特に大企業では引き続き新たに取り組みを始める企業が着実に増加しています。
数年前には企業の担当者から「うちの会社は、まだ・・・」という言葉をしばしば耳にしましたが、最近は「うちも、何か始めないといけないと思っています!」というような声が多くなっています。
これまでLGBTに関して法律で具体的に規定されていることはかなり限定的でしたので、各企業の取組も企業任せの部分も大きかったですが、今年のように法律が整備され最高裁での確定判決なども増えてくると、コンプライアンス上も企業として具体的な対応が必要な部分が増えてきます。
2024年もいろいろな変化があると予想されています。
企業としても、コンプライアンスは当然として、より社員が働きやすく顧客にも優しい取り組みをしていきたいですね。