LGBT理解増進法が施行され、注目を集めていたトランスジェンダー(性同一性障害)の職場でのトイレの使用制限の可否に関して、最高裁判所の判決がでました。
トランスジェンダー女性職員に対するトイレの使用制限は認めないという、原告勝訴の判断です。

今回の裁判は、どのような内容だったのか?またこの判決により、企業はどのような対応をしていくべきなのか?を考えてみたいと思います。

今回の裁判は経済産業省で働く性同一性障害の女性(戸籍上は男性)が、職場で自認する女性用トイレの使用を認めないのは不合理な差別だとして、国に処遇改善と損害賠償を求めていたものです。
一審では、原告(トランスジェンダー女性)勝訴でしたが、東京高裁では原告敗訴と判断が分かれている中での最高裁の判断となりました。

まず裁判の内容についてです。
裁判で明らかにされた事実関係は以下の通りです。
・1999年頃に性同一性障害という診断を受ける
・2008年頃から私生活は女性として過ごすようになった
・2009年に職場(経産省)で性同一性障害であり女性としての勤務(※)希望の申し入れをする
※女性装(服装、髪型、メイク)、女性用休憩室トイレ使用、乳がん検診、出勤簿の名札の色の変更、通称名の使用、職場での性別変更、メールアドレスの変更、身分証の名前写真の変更など
・2010年に女性としての勤務(※)が認められる
※服装、髪型、休憩室、乳がん検診、名札の色など。トイレに関しては2階以上離れた女性トイレの使用を許可。
・同時に職場同僚に説明会を開催
※数人の女性職員が違和感を抱いているように見えた
・2011年に戸籍上の名前の変更完了
・2013年にトイレを自由に使えるように人事院に行政措置を求めた
・2015年に人事院はトイレの自由な使用は認められないと判定した

今回の訴訟の中での注目は、トランスジェンダー女性に対して、女子トイレの使用制限をどう判断するかという点です。
これに関して最高裁は今回、一審の判決を支持し、トイレの使用制限は認めないという判断を示しました。

今回の最高裁の判決においては、トランスジェンダー(性同一性障害)のトイレ使用に関しては「具体的な事情を踏まえ」て判断することを求めています。
つまりトランスジェンダー(性同一性障害)のトイレ使用は、一律に肯定されたり否定されたりするものではなく、ケースバイケースの判断となるということです。

では今回のケースではどのような「具体的な事情」があったのでしょうか。
今回のケースで僕が考える特に斟酌すべき事項としては次のようなものがあります。

  1. 性同一性障害の診断を受けていた
  2. 健康上の理由で性別適合手術を受けられなかった
  3. プライベートは女性として過ごしていた
  4. 職場でも服装やメイクなど女性として勤務していた
  5. 離れたフロアの女性用トイレの使用は認められていた
  6. 他の職員から明確な反対や懸念の声がなかった

特に4~6を考えると、この方が女性用トイレを自由に使用することによる具体的なトラブルは想定できなかった、という点が判決に大きな影響を与えたと考えられます。

今回の裁判の結果を受けて、企業としては今後どのように対応していくことが求められるでしょうか?

まず企業においては、裁判で勝つか負けるかという話の前に、トランスジェンダー社員が働きやすい環境をつくるというダイバーシティ&インクルージョンの考え方や、係争によるブランド価値毀損のリスクなども考慮して、今回の裁判事例より幅広い対応を考えることが大切です。

その際に基本となる姿勢とは、トランスジェンダー社員から自認の性別で働きたいという相談があった場合は真摯な対応をするということです。
どこまで対応が可能かは企業や職場によって異なりますが、できるだけの対応をしていくことが大切です。

具体的な対応を検討するうえでは、本人の希望や状況、職場の風土、職場の設備、移行状況の変化への対応、社会の理解度合いとのバランスなどが考慮すべき事項として考えられます。

LGBTに関する話の中で、トイレの話は特に注目度が高く、また判断や対応が難しく、誤解も多いのが現状です。
トイレの話に関しては設備面だけで対応を考えるのではなく、社員の理解を深め抵抗感をやわらげるための研修などの啓発活動も行い、できるだけ本人も周りも働きやすい環境づくりを進めていくことが大切になります。