『トランスジェンダー入門』

周司あきらさん(トランスジェンダー男性)と高井ゆと里さん(ノンバイナリー)の共著です。
LGBTといっても、性的指向の話と性自認の話はかなり違います。
本書はトランスジェンダーに焦点をあてて、言葉の定義、性別移行、差別、医療、法律、フェミニズムと男性学まで幅広く網羅した一冊です。

著者お二人の社会への強い想いが乗った文章だからこそ、とても共感できるという人も多くいると思います。
表現も平易で読みやすいです。

書籍概要

目次
第1章 トランスジェンダーとは?
第2章 性別移行
第3章 差別
第4章 医療と健康
第5章 法律
第6章 フェミニズムと男性学

トランスジェンダーとはどのような人たちなのか。
性別を変えるには何をしなければならないのか。
トランスの人たちはどのような差別に苦しめられているのか。
そして、この社会には何が求められているのか。
トランスジェンダーについて知りたい当事者およびその力になりたい人に向けた一冊。

印象的なコンテンツ

『ノンバイナリーとは』(P20)
ノンバイナリーとは中性、両性、無性、不定性という言い方をよくされますが、トランスジェンダー(本書定義:出生時に割り当てられた性別とジェンダーアイデンティティが一致していない人)の中で、自身のアイデンティティを男性か女性のどちらか一方に安定的に見出していない人の総称です。

ノンバイナリーをトランスジェンダーに含めるかどうかはいろいろな考えがありますが、近い部分と全く異なる部分があるため、まったく同じに扱うことは注意が必要です。

『性器の手術をしたから今日から女性/男性として生きられるようになった!というわけにはいきません』(P40)
性同一性障害の特例法では、手術など5つの要件を満たせば戸籍上の性別を変更することができるとされています。
そのため性別移行というと、ある日を境に変わるように感じる人も多くいますが、実際にはいろんな段階を経て移行をしていきます。
本書では、精神的な移行、社会的な性別移行、医学的な性別移行の3つの視点から性別移行について詳述しています。

『公衆浴場やスポーツなどの局所的な場面は(中略)、個別運用の次元で対応すべきことであり、性別承認というトランスの人権の話とは次元が違います』(P171)
トランス女性に関連して、スポーツや公衆浴場(トイレ)などに問題があるという意見はよく目にします。
それに関して著者は、人権問題と局所的な場面は次元が違うという主張を展開します。
確かに人権問題と個別の問題を同じ土俵で比べるものではないです。
これに関してはトランス女性の人権問題と、シス女性の人権(安心安全)問題の対立という捉え方をされる場合もあります。

感じたこと

トランスジェンダーといっても状況や悩み、希望はさまざまなので、本書とは異なる考えのトランスジェンダー当事者もいます。それを念頭に置いて読んでみると新しい発見があると思います。
また本書はトランスジェンダー全般について書かれているため、職場での対応や働き方に直接関係するパートは限られています。

LGBTの中でもトランスジェンダーに関してはより具体的かつ個別的な対応が職場では必要になるケースも多いです。
職場での対応については、『トランスジェンダーと職場環境ハンドブック』がより参考になるかもしれません。
またトランスジェンダー対応のより本質的な課題については『トランスジェンダーを生きる~語り合いから描く体験の「質感」』が参考になります。
いろいろな本をあわせて読むことで、トランスジェンダーの課題とその対応について立体的な理解につなげやすいです。