毎年公表されるイプソスの「LGBT+ Prideレポート」は、世界各国におけるLGBTに関する意識の変化を知ることができる貴重な調査です。

2026年版では、「LGBTへの理解が後退した」というよりも、「社会の意識が安定化し、企業に求められる役割が変わってきた」ことが読み取れます。
この変化は、日本企業がLGBT施策を考えるうえでも重要なヒントになります。

 

今回のレポートで注目したいのは、企業やブランドがLGBTの平等を積極的に推進することへの支持が、2021年の49%から2026年には42%へと低下している点です。
この数字だけを見ると、「企業はLGBT施策を控えたほうがよいのではないか」と考える人もいるかもしれません。

しかし、同じレポートでは、「LGBT+の従業員を明確に支援するプログラムや方針を持つ雇用主」を支持する人は39%であり、反対する人は23%にとどまっています。
つまり、企業が自社の従業員を支えることについては、今もなお一定の支持があるのです。

この二つの結果から見えてくるのは、企業に求められるLGBT施策が、「社会に向けてLGBTへの支持をアピールすること」だけではなく「従業員が安心して働ける環境を着実に整えること」へと変化している可能性です。

 またレポートでは、トランスジェンダーの人々が社会で差別を受けているという認識は世界的に共有されている一方で、スポーツへの参加や男女別施設の利用など、個別のテーマでは意見が分かれていることも示されています。近年、日本でもこうしたテーマはSNSなどで大きな議論になることがあります。

しかし、人事担当者が重要視すべきなのは、こうした社会的な論争に企業として積極的に加わることではありません。
企業の役割は、「どちらの立場が正しいのか」を判断することよりも、すべての従業員が安心して能力を発揮できる職場をつくることです。
そのためには、SOGIハラスメントを防止すること、公平な採用を行うこと、相談窓口を整備すること、福利厚生や社内制度を公平な視点で見直すことなど、日々の人事施策を着実に積み重ねることが重要になります。

 

レポートでは、LGBTに対する考え方は国によって大きく異なることも示されています。
そのため、海外で支持されている施策を、そのまま日本に持ち込めばよいとは限りません。
特に興味深いのが、日本の回答傾向です。
日本では、多くの設問で「賛成」が他国と比較して低い一方で、「反対」も決して高くありません。
例えば、「企業やブランドがLGBTの平等を推進すること」への賛成は37%ですが、反対は23%です。また、「雇用主がLGBT+従業員を支援するプログラムや方針を持つこと」についても、賛成35%に対して反対は21%となっています。
欧米諸国のように「賛成」が高いわけでもなく、一方で「反対」が広がっているわけでもありません。

では、この結果をどう解釈すればよいのでしょうか。

この調査だけから理由を断定することはむずかしいです。理由の一つには「まだLGBTへの関心が高くない人が多い」と考えることができます。一方で「LGBTを政治的・社会的な対立軸として捉えていない人が多い」と考えることもできるでしょう。
例えば、「職場にLGBTの人がいても特に気にしない」「誰を好きになるかは個人の問題ではないか」と考えている人は、積極的に「賛成」と答えることもなければ、「反対」と答えることもありません。
つまり、日本の低い「賛成率」は、必ずしもLGBT施策への否定を意味しているわけではないのです。
この点は、日本企業がLGBT施策を考えるうえで重要なポイントではないでしょうか。

LGBT施策については、社内でもさまざまな意見があります。「LGBTの取り組みをもっと推進してほしい」という声がある一方で、「LGBTばかり特別扱いするのはどうなのか」という声が聞かれることもあります。
こうした状況で、「賛成か反対か」という二項対立で考えてしまうと、人事担当者は身動きが取りにくくなります。
しかし、そもそも人事の役割は、社員全員をLGBT施策に賛成させることではありません。
一人ひとりが安心して働き、能力を発揮できる職場環境を整えることです。

その視点に立てば、LGBT施策は特別な活動ではなく、「公平な人事」や「働きやすい職場づくり」の一部として位置付けることができます。
例えば、SOGIを理由としたハラスメントを防ぐことは、LGBTに「賛成」するかどうかとは別の問題です。
相談したい社員が安心して相談できる窓口を整えることも、特定の価値観を押し付けることではありません。

「LGBTを特別扱いする」のではなく、「LGBTであることによって不必要な不利益が生じないようにする」。
この考え方であれば、LGBTに強い関心を持っていない社員にとっても、施策の意味を理解しやすくなるのではないでしょうか。

イプソスのレポートを参考に、日々の活動を一つひとつ積み重ねていくことが、結果としてLGBTを含むすべての従業員が安心して働ける職場をつくり、企業への信頼や持続的な成長にもつながっていくのだと思います。