2019年4月から地上波テレビで、複数のLGBT関連ドラマが放送されています。それぞれ特徴があり全く異なる視点の作りですが、その中でもゲイ当事者のリアルが伝わると評判のNHKで放送している『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る』。
今回は、このドラマ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る』の原作である『彼女がすきなのはホモであって僕ではない』の紹介です。
書籍概要
主人公の安藤純は同性愛者の男子高校生。偶然、同級生の三浦紗枝がBL(ボーイズラブ)本を買っているシーンを目撃し、彼女の“秘密”を知ることになります。
純は、同性愛者ではありますが、大人になれば家族を築き、血の繋がった子供も持ちたいという“ふつう”の幸せに憧れを抱いています。三浦と付き合うことになった純。彼女に自分の性的志向を隠したまま、付き合い続ける中で、さまざまな出来事がおこり、結果として純は、誰かを好きになるとは?幸せとは?自分自身は何者か?などをもがきながら探していきます。
著者は同性愛であることをオープンにしています。同性愛者の周りの人の行動・思考を同性愛者の視点から描いています。
印象的なテーマ
P22『真に恐れるべきは、人間を簡単にする肩書が一つ増えることだ』
主人公である純が、クラスメイトの三浦さんが腐女子であることを目撃した際に、純は『腐女子ぐらいばれてもいいと思うけど』というのに対して、純のSNS上の友人であるミスター・ファーレンハイトの回答です。
人は、自分が理解しやすいように世界を単純化してしまうものであり、その結果本当のことがより分からなくなるのです。
P232『俺たちは認めている。お前らが勝手に隠しているだけ。そういう風に責任逃れしたいだけじゃないか』
純がゲイであることを気持ち悪いという同級生の小野。小野が同性愛に理解がある発言をする他のクラスメイトに発した発言です。LGBTに差別がないという人の中には、確かに責任逃れをしたいという考えの人もいるでしょう。
P307『誰に嫌われても、誰が認めてくれなくても、自分だけは自分を愛してやりたい』
いろんなことがあって、悩み、傷つき、支えられ、自分なりに一つ整理ができたときの純のセリフです。
自己受容できているか、これが大きな分水嶺になります。
感じたこと
主人公は、ゲイの純なのですが、ゲイの彼女である三浦さんの存在がとても大きいです。腐女子という設定ですが、別に腐女子であるかどうかと関係なく、ゲイである純を好きになり、純という人に正面から向き合います。その行動は非難される点もあるかもしれませんが、彼女の存在は本書では非常に大きいです。“ホモ”に侮蔑の意味があることも知らなかったのですが、これはアライなんだと思います。
その意味では、ドラマタイトルの“うっかり”という表現は少しズレがあるような気もします。
本書はさまざまな伏線もしっかり回収していくので、繰り返し読むと、また違う側面が見えて面白いです。
ドラマはほぼ同じ流れで描かれています。QUEENの曲が聞けるのが、書籍にないドラマの魅力です。