『しまなみ誰そ彼』。

LGBTをどっしりとメインテーマにして、ゲイの高校生を軸にさまざまなセクシュアリティの人物が登場します。セクシュアリティ≒アイデンティティと言われることも多くありますが、その意味を実感できる漫画です。

特に10代のLGBT当事者の生と性に関する悩みのリアル、自分のアイデンティティを希求する様子、LGBTそれぞれのセクシュアリティの違いなどが描かれています。

全4巻ですでに完結しているので、続きが気になるということもなく読み切れる漫画です。

書籍概要

主人公の要介(かなめたすく)はゲイの高校生。スマホで「ホモ動画」を観ていることを同級生に知られ、周囲から“ホモ”とからかわれます。自分のセクシュアリティ(ゲイ)がバレたと不安になり、自殺まで考えます。そんなときに、「誰かさん」と呼ばれているちょっと浮世離れした不思議な女性に出会い「談話室」という場所に誘われます。そこではトランスジェンダーやレズビアンなど、セクシュアリティに悩みを抱えた人たちが集っており、そこで話しは展開していきます。

印象的なシーン

『なんでも話して。聞かないけど。』

これは「誰かさん」と呼ばれる女性がよく使うセリフで何度も出てきます。「誰かさん」は迷っている人、悩んでいる人の話を聞くのですが、一切聞き返さないし、何も反応をしません。何も反応はしないのですが、無関心というのではなく、ただ黙って側に寄り添うという姿勢です。悩みを吐露したほうは、無反応な「誰かさん」を見ながら自分自身に向き合うことができます。

『ばれた後の世界なんて、地獄だ。』

自分のセクシュアリティを必死に隠す主人公の介。高校生という狭い世界だからこそ、逃げ場がなく追い詰められていきます。漫画ならではですが、表情からも必死な感じが伝わってきます。

『僕のことなんか僕にもわからん。誰にも。なんにもわからん。』

女装をする小学生の美空(戸籍:男性)が、なぜ女装をするのか?女の子になりたいのか?を問い詰められたときのセリフです。身体も心も大きく変わっていく思春期だからこそ、自分自身が何者なのかに悩みます。

『自分の娘が同性愛者であることを、嫌じゃと思ってしまった、そんな自分に腹が立った。』

娘のセクシュアリティを偶然知ってしまった父親が、娘と話す場面です。『嫌じゃと思った』といいながら、それを飲み込み、娘の幸せが一番だからと言って、応援をしていきます。

感じたこと

この漫画には、ゲイ、レズビアン、FTMトランスジェンダー、トランスベスタイト、アセクシュアルなどのいろいろなセクシュアリティの人が登場します。
周りにLGBTの知り合いがいないという人には、いろんなセクシュアリティのイメージがつけやすくなると思います。

一度目は、ストーリーを追いがちですが、再度読み直してみると、いろんなセクシュアリティはあっても、結局、一人ひとり違う人間でありセクシュアリティも個性の一つということが伝わってきます。

舞台となっている尾道の風景もとてもきれいで引き込まれそうな魅力のある漫画です。