『母二人で“かぞく”はじめました』
LGBT当事者のカップルは子供をもたないケースが多くありますが、春ちゃんと麻ちゃんはともに以前、男性と結婚していて自分の子供がおり、その二人が一緒に暮らすというやや珍しい家族の形です。
春ちゃんの語り口が、とても柔らかく、ユーモアたっぷりですし、麻ちゃんがとてもさばさばしたキャラなのもあり、200ページの書籍ですがスラスラ読めます。
同性パートナーとの暮らしという視点だけでなく、子育てやがん治療の話などもでてくるので、近しい境遇・体験の読者はセクシュアリティに関係なく共感できるところも大いにある一冊です。
書籍概要
目次
第1話 小野春のこと
第2話 麻ちゃんのこと
第3話 子供たちのこと(幼少期)
第4話 結婚式のこと
第5話 両親のこと
第6話 子供たちのこと(小学生~思春期)
第7話 にじいろかぞくのこと
第8話 乳がんのこと
第9話 裁判のこと
小野春さんは、40過ぎの“ごく普通のバイセクシュアルのおばさん”です。二人の男の子を“孤育て”しているときに、麻ちゃんと出会い、同性パートナーとして一緒に暮らしていくことを決意します。麻ちゃんのこどもも含めた母2人、子供3人の家族の話です。
印象的なコンテンツ
『ノンケ(異性愛)の女性のみなさんは、男性だけを好きになりますよね。でも、私はそれが“3センチほど右にズレた”ような感じ。結果的に背別の線をまたいで男女ともに好きになっている、という具合です。』(P12)
小野さんが自分自身のセクシュアリティについて説明をしている場面です。レズビアンとバイセクシュアルの微妙な違いや感覚をこのように表現しています。小野さんとしては、付き合う相手が女性でも男性でも大差がないのに、どちらと付き合うかで周りの状況ががらりと変わるというのがバイセクシュアルの特徴であり、そのややこしさにふりまわされてきたそうです。
『私がこうなったのはママのせいだし、育て方が悪かったのよ!』(P89)
家族へのカミングアウトのシーンです。家族へのカミングアウトはどのようなタイミングや場所、言い方が良いのかを考える人は多くいます。そこで通常は避けたほうが良いといわれている⁈
- 親を責める
- 育て方のせいにする
- 自分が未整理な状態で感情的な言葉をぶつける
という大失敗をやらかしてしまったということです。小野さんはお母さんとなんでも話し合える関係だったからこそ、お母さんもショックだったと思いますが、絶縁状態にはならず、また祖母と孫という関係もあったので、なんとか乗り越えることができました。
『いや、生徒にいることは理解していますが、親御さんにいるというのは想定してなくて!いやぁ、驚きました!』(P128)
次男が中学生のときに成績が落ち込み、その際にスクールカウンセラーの先生に何度か相談した際のやり取りです。ひとり親だと思っているようだったので、思い切って同性パートナーがいるということをカミングアウトした際の、スクールカウンセラーの反応です。
小野さんとしては、スクールカウンセラーという立場だし、ある程度は理解があるだろうと思っていたら、予想を裏切るものすごいオーバーリアクションだったそうです、これでは次男も学校で家族のことをなるべく話さないように隠したがるのも無理はないという状況でした。
感じたこと
著者の小野春さんと、パートナーの西川麻美さんは、「結婚の自由をすべての人に」訴訟(同性婚訴訟)の原告の一人となっています。
この裁判は、先日、札幌地裁で一審の判決がでましたが、全国でもまだ係争中という状況です。本書では裁判に至る経緯や想いも書かれています。本書を読む限り、お二人はとてもフツーの人です。原告がどんな人でどんな想いなのかを知るという意味でも一読をお勧めします。