『うちの息子はたぶんゲイ』
タイトルの通り、ゲイ(と思われる)息子をもつ母親の目線の漫画です。
高校生の、ゲイと思われる息子とその母親の日常を切り取った漫画です。母はとても朗らかな性格で、必死に同性愛を隠している息子を愛情深くとても暖かく見守っています。
日本でもLGBTという言葉がよく聞かれるようにはなっていますが、やはり異性愛がマジョリティであり、“フツー”であり、暗黙のルールと言えるかもしれません。
同性愛というのがテーマではありますが、同性愛に限らず“フツー”から外れていると感じた場合には類似した生きづらさはあるかもしれません。特に学校という狭い世界では“フツー”に対する同調圧力も高く、だからこそ、いろんな違いを想像できることはとても大切だと気づかされます。
とても読みやすく、心が温かくなる漫画です。オープンにしていないゲイの当事者が日常的に隠すために苦労していることが細かく描写されているので、理解したいというかたにおすすめです。
書籍概要
夫は単身赴任。息子二人と普段は三人暮らし。親バカなのかもしれないけど、二人とも本当にいい子。ちょっと気になることといえば、息子の浩希の好きな人は男の人なのかも。本人は隠そうとしているけど、バレバレなときもある。まだそのことについて息子とは話してないけど、私が思ってることはこれに尽きる。「うちの息子はたぶんゲイで、素直でとってもかわいいのだ。」お母さんと息子、愛情たっぷりの家族の物語です。
印象的なシーン
『なんでうちのカレーってコーン入ってんの? みんなに言ったらフツーは入っていないって!』
漫画の冒頭に出てくる母と息子の浩希の会話のシーンです。このあと、将来は料理が得意な“彼氏”につくってもらう、というセリフがぽろっと漏れて、慌てて否定するという、この漫画の定番の流れになるのですが、最初に敢えてセクシュアリティとは関係ないけれど、“フツー”とは何か、というのを問いかけてきます。そしてこの質問に対して母は『よそはよそ、うちはうちよ』と答えます。全編を通じて、母は浩希のことを全く否定せず受け入れるのですが、このカレーの件からも、母の多様性に関する価値観が伺えます。
『なんかホモの恋愛ドラマなんだってよ』『男同士のキスシーンとか気持ち悪いよねー』
単身赴任中の父親が帰宅した際に、テレビドラマの話題を話すシーンです。父親は浩希がゲイかもしれないとは全く思っていないです。いわゆる悪気はない発言です。もちろん、これに対して浩希は慌てて同調をして、ゲイであることを必死で隠します。
ただこの父親はこのドラマを見てもいないのに否定的に話しており、母親からはやんわりとたしなめられます。
父親は一貫して、セクシュアリティに関しては悪気がないけど無知無関心な人として描かれています。ただ、それでも息子に対しては愛情深く接しているために、別のところでの絆はしっかりとつながっていて、浩希も父親を信頼し頼りにしている部分もあります。
感じたこと
この漫画にでてくるエピソードの一つ一つは、いわゆるゲイあるあるといえるものかもしれません。だからこそ、共感をするゲイの当事者は少なくないと思います。特に浩希と同年代の中高生の中には、勇気づけられる人もいると思います。
またLGBTの理解を深めたいと思いつつ、どういう接し方をしたらいいかわからないという人にとっても、一つの接し方のモデルになるのかなとも思います。
このような作品を通じて、同性愛も身近にある愛の形の1つであることを知る人や自分の中のフツーについて立ち止まって考えてみる人も多くいるのではないかと思います。
今はまだ「フツーではない設定」「多様性の象徴」として同性愛が描かれている今日ですが、必要な過渡期を経て、世の中の価値観が少しずつでも変わっていくことに期待したいと思います。