トランスジェンダーは、ホルモン治療などにより性別移行を進めていく人も多くいます。トランスジェンダーに理解のない職場では働きにくいということで、転職をせざるを得ない人もいます。一方で、理解がある職場であっても転職をするという人もいます。
今回は、FTMトランスジェンダーのMさんの性別移行と転職に関するお話をご紹介します。
自分は、女性として生まれてきて、先日、男性に戸籍変更をしました。FTMトランスジェンダーと言う意識は中学生の頃からありました。高校大学とずっと男の子のような服装で過ごしていたので、周りもトランスジェンダーと言う認識があるかは別ですが、そう言う人なんだ、と言う感じで受け取ってくれていたと思います。
大学時代は、自分の中でもあまりセクシュアリティの意識は無くなっていたのですが、大学3年生で就活を始めたときに改めて、性別の違いというのを感じました。自分は男性として生きたいと思い、就活ではトランスジェンダーというのを、全ての会社でカミングアウトをして、面接を受けました。
その中で縁があったのが、前職のA社になります。上場会社でしたが、その当時は特にLGBT取り組みのようなものはやっていなく、どういう反応があるか不安はあったのですが、面接では意外にすんなり受け止めてくれました。当時は自分はまだクリニックにも通っていなくて完全未治療でした。短髪でリクルートスーツとかの服装だけメンズっていう感じですね。入社前には、人事の人が働き方をいろいろ相談に乗ってくれて、通称名の使用や誰でもトイレの利用もできました。まだ見た目に違和感があったので配属先で入社時に受け入れ研修と併せてカミングアウトもしました。
職場の部長は50代の男性でLGBTなんて全然知らないっていう人でしたが、すごく柔軟な人で、自分が働きやすいように気を配っていつも声もかけてくれましたし、周りの同僚も一個人として接してくれていました。直接聞いたわけではないですが、他部署の人から自分のセクシュアリティについていろいろ聞かれたこともあったみたいですが、うまく対応してくれていたみたいです。そういう意味では、あまりセクシュアリティを意識することもなく、差別的な言動を目にすることもなかったです。
そんな働きやすい職場を結果的には、昨年、退職をしました。入社直後からホルモン治療を始めていたのですが、3年もホルモンをやっていると、声も下がり筋肉もついて髭も生えてきて、見た目も男性に見られるようになってきました。プライベートではほぼ全員に男性としてみられるような状況でした。その中で次に性別適合手術を受けて、戸籍変更もしようと決めたときに、このまま今までの職場で“元女性“として働くのではなく、完全にリセットして“男性“として働きたいと思いました。
職場の人は、本当にいい人たちで、いろいろ気を遣ってくれていてそれはそれでとてもありがたかったのですが、一方で、特別扱いをしてもらっているということにも抵抗感があったのかなと今では思います。戸籍変更までしてしまえば、もう誰にも元女性であることを伝える必要はないので、特別扱いをしてもらわなくても、一人の男性として普通に生きていけるかと思っています。先日、やっと性別変更まで済んだので、これからは男性として、新しい職場と社会で生きていこうと思います。
Mさんのように戸籍変更と併せて、転職をするというトランスジェンダーは少なからずいらっしゃいます。新しい職場でまた一からキャリア形成していくということになれば、その分の大変さもあると思います。またプライベートの友人など完全にリセットし切れるわけではありません。Aさんはそれでも特別な気遣いをしてもらうよりは、普通に男性として社会に埋没して生きていきたい、と話してくれました。