採用活動において、性的指向や性自認といったセクシュアリティのみを理由とした不採用は、厚生労働省の示す公正な採用選考という考え方に反しており、差別的な取り扱いと考えられます。
一般的に、採用においては不採用の場合の理由は求職者に明示されないので、不採用になってもセクシュアリティが理由かどうかは求職者にわかりません。

しかし、今回は、トランスジェンダー男性のKさんが就活の場で、大企業の社長から、セクシュアリティを理由にNGと言われたという体験談です。

私の就活の話をします。

私は、昔から英語に自信があったこともあり、就活生のときには、海外赴任ができる、または海外の企業や人と関連する仕事を探していました。

いくつか応募した企業の一つにX社がありました。X社は上場企業ではありませんが、業界では最大手のひとつで、誰でも名前を知っているような大企業でした。

そこでは、自分の希望するような仕事ができそうだったので、第一志望でした。

私は、小さいころから自分の性別は、他人とは少し違うという感じをもっていて、中学生の時には、トランスジェンダーという自覚がありました。中学、高校時代は、一応、女子として過ごしていましたが、髪は短髪でいつも男の子っぽい格好をしていました。

大学のときには親にもカミングアウトをして、ホルモン治療も始めたのもあり、声も低くなり、初めてあった人には男性だと思われることも増えてきました。その頃はまだ戸籍が女性だから女性用トイレを使っていたのですが、警備員を呼ばれたこともあったので、状況を見て男子トイレを使うようになっていました。

このような状態で就活をしていたのですが、就活では、女子用のリクルートスーツやよくある女子の髪型などはできず、短髪・ノーメイクに女性用のパンツスーツという格好で面接に臨んでいました。

X社でもこのスタイルで面接をうけて、一応、最終面接まで進めました。最終面接をうける前に、人事の採用担当者に、「実はトランスジェンダーで、入社後は男性として働きたい」ということを伝えました。
採用担当者からは、「会社として、検討したいので、改めて連絡する」というお返事をもらいました。その後、最終面接前に、面談をするからということで呼ばれて本社までいったところ、そこには社長がいらっしゃいました。

社長にお会いしたのは初めてでしたし、セクシュアリティの話だったのでとても緊張したのをよく覚えています。社長には自分のセクシュアリティに関して、生活や働き方の希望を話しました。あまり整理できずにわかりにくかったかもしれないですが、社長はしっかり聞いてくれました。

そのうえで、社長からは、現状の会社の状況や雰囲気などの話があり、最後に「僕は、Kさんみたいな人に、当社で活躍してほしいと思っているけれど、正直、今すぐには難しい。近い将来、トランスジェンダーの人も働きやすい会社になるようにしていこうと思うけれど、今回は申し訳ないけれど、採用できない」と言われてしまいました。結局、最終面接を受ける機会ももらえず不採用となりました。

その日は、とても悔しかったです。

 

この話は2015年のことです。やっと日本でもLGBTという言葉を聞くようになり始めたばかりで、企業としてもまったく取り組みとかもなかった時期だと思います。

今、考えると、その社長は一人の就活生のために忙しい中、時間をとって、真摯に対応をしてくれたのかもしれません。実際にその企業は、今はLGBTに関していろいろな取り組みをしているようです。

X社にKさんのような人から応募があれば、今は別の対応をされると思いますし、そうでなければ、大問題になりかねない対応ですが、数年前までは実際に大企業や上場企業でも同じような対応事例はいくつもありました。
それだけこの数年で企業や社会の理解度が深まっているとは言えます。

Kさんは、今は別の企業でやりがいのある仕事に就けています。それもあり、今でも悔しかった気持ちは残っている一方で、X社も含めて、社会が変わっていくことを願い、応援する気持ちもあるそうです。