『アセクシュアル アロマンティック入門』

LGBTやSOGIについて考えるとき、私たちは「誰を好きになるのか」という性的指向を中心に考えがちです。
しかし、そもそも「誰かを恋愛的に好きになる」「誰かに性的に惹かれる」ということ自体が、すべての人に当てはまるのでしょうか。

今回ご紹介するのは、松浦優さんの『アセクシュアル アロマンティック入門――性的惹かれや恋愛感情を持たない人たち』です。

本書では「強制的性愛」や『恋愛伴侶規範』という言葉がでてきます。
これはアセクシュアルやアロマンティックやLGBTの当事者だけに関係する話題ではなく、LGBを含め多くの人が「普通」としてきた恋愛や性愛のあり方そのものを見直すきっかけになります。

やや難しい表現も出てきますが、専門的に考えたい人向けの入門書です。

 

★★★書籍概要★★★

LGBTに関する議論から取りこぼされてきたものがある。
それが「アセクシュアル」「アロマンティック」などのセクシュアリティだ。アセクシュアルとは「他者に性的に惹かれない」という指向で、アロマンティックとは「他者に恋愛的に惹かれない」指向をいう。

私たちは「誰しも他者を恋愛的な意味で『好き』になったり、性的な関係を持ちたいと思ったりするはずだ」という前提で日々を過ごしがちだが、そういった思い込みは彼らの存在を否定することになる。

本書ではアセクシュアルやアロマンティックの人々の経験や置かれている状況、歴史、そして関連する用語や概念を詳細に解説する。

【目次】
はじめに――「好きになる」とは
第1章 アセクシュアル/アロマンティックとは何か
第2章 Aro/Ace の歴史
第3章 Aro/Ace の実態調査
第4章 差別や悩み
第5章 強制的性愛とは何か
第6章 セクシュアリティの装置
第7章 結婚や親密性とセクシュアリティの結びつき
第8章 Aro/Ace の周縁化を捉えるために
第9章 Aro/Ace のレンズを通して見えてくるもの
おわりに

 

★★★印象的なコンテンツ★★★

『こうしたあり方を理解するための枠組みとして「性的指向」と「恋愛的指向」を区別する見方が提起されています』(P20)
“性”を理解するうえでSOGいや性的指向という考え方が用いられますが、そもそもアセクシュアルとアロマンティックを区別して考えるために、恋愛的指向というのが紹介されています。
『アロマンティックはアセクシュアルの一部ではない』(P116)とも書かれています。

 

『一対一の永続的な恋愛関係が、望ましい特別なものと位置づけられます』(P127)
異性愛が望ましいという“異性愛規範”について、同性愛などの観点から批判がありますが、そもそも異性、同性に限らず恋愛伴侶規範(≒恋愛至上主義)のもたらす弊害に警鐘を鳴らします。

 

『友達以上、恋人未満』『男女の友情は成り立たない』(P217)
このような言い回しは、親密関係の序列化をすすめ、また恋愛と性的かどうかを結び付け、恋愛伴侶規範や強制的性愛の考えは、独身者差別にもつながると説明されます。

 

★★★感じたこと★★★

LGBTの当事者と非当事者という区分があります。
LGBTの中でも、性的指向と性自認という区分があります。
性的指向だけではなく、恋愛的指向という違いもあります。
本書を読んで感じるのは、解像度をあげていくことで、LGBTに関する社会的課題と考えがちなものが、実は、マジョリティと呼ばれる側の人たちにも大きく関係しているということです。

本書の末に『「例外的な少数者を受け入れてあげる」と考えるのではなく、異性愛を含むいかなるセクシュアリティも特別扱いをしない社会目指す』(P254)とあります。

SOGI施策というと、LGBT当事者が働きやすい制度や環境を整えることを思い浮かべがちです。
しかし、本当に考えたいのは、「職場ではどのような生き方が当然だと思われているのか」ということかもしれません。
雑談の中で恋人や結婚の話題を当然のように出していないか。福利厚生や社内制度が「配偶者」を中心に設計されていないか。独身の社員に対して「まだ結婚しないの?」という会話が気軽に行われていないか、確認してみても良いかもしれません。

LGBTについてある程度学んできた人事担当者にこそ、おすすめしたい本です。