今回はLGBT取り組みの先進的な事例のご紹介です。
LGBT
の取り組みといえば、研修やeラーニングを実施し、パートナーシップ制度があり、社内にLGBT当事者のコミュニティをつくり、LGBTの各種イベントに出展や協賛をしている企業というイメージがあるかもしれません。

今回、ご紹介する企業A社はそのような取り組みはほぼありません。しかし実際にLGBT当事者が”働きやすい”職場環境づくりに取り組んでいる企業になります。

 

A社は社員数2000人以上で支店も全国に数十か所ある大手企業です。A社内では特にLGBTの取り組みもなく、あまり意識もなかったのですが、中途採用の中で、応募者(Bさん)からトランスジェンダーであるというカミングアウトがあったのがきっかけです。

人事部としてはキャリアもあり、スキル的にも人柄的にも採用したいという考えでしたが、一方でトランスジェンダーとカミングアウトをしている人の採用はこれまでなかったので、どう対応したらよいかわからずに、弊社に相談をいただきました。

僕はまず人事部の方に会社としての今後の方針をお聞きしました。LGBTに関わる明確な方針は特に決まっていないけれど、社風としてはオープンであり、差別意識もなければ、職場にカミングアウトをしたLGBT当事者が入ってきても、多くの社員は普通に接すると思う、とのことでした。

A社は、採用にあたりBさんと面談をするとのことでしたので、同席させていただきました。A社からは、Bさんにとってどうやったら働きやすい環境になるかという観点でトイレや更衣室などの提案がありました。

ただ・・・

この提案はA社は良かれと思ってしているのですが、Bさんの気持ちとは少しずれていました。Bさんはその場では特に何も言わなかったのですが、あとで二人で話したところ、自分の中の迷いも含めて率直に話してくれました。

それも踏まえて、日を改めて再度、A社とBさんの面談がセッティングされ、今度はA社もしっかりとBさんの希望を聞いていました。そもそも企業の職場環境がわからない中で、希望を言語化してちゃんと伝えるというのは意外と難しいものです。そういう方はとても多いので、「希望を教えてください」といって聞くのではうまくいかないケースはよく見ます。

この話し合いの中でA社の良いところは、自社で現状できることとできないことを明確にし、Bさんに伝えていたことです。そのうえで、多くの人がより働きやすい環境にしたいので、Bさんにも意識の上で協力してほしいと考え、伝えていました。

現実的には、LGBT取り組みを進めている企業でも、手探りで進めているケースがほとんどです。「協力してほしい」というのはLGBT当事者でも良いと思う人と、困る人がいます。だからこそしっかり向き合うことが大切になります。LGBT当事者もいろいろな理由があって自分の気持ちをちゃんと伝えられないということも想定して聞くことも必要です。しっかり向き合う際に大事なのは、多少の知識と、先入観なくフラットな気持ちで話を聞くことです。

そのうえで、A社、比較的大丈夫そうな職場を選び、Bさんを採用・配属することにしました。その職場の責任者には状況を共有して、受け入れ態勢を徐々につくっていったのです。

 

A社ではその後、ほかにも数人のLGBT当事者が選考をうけて、そのうち2名が新たに入社しています。その中でA社のLGBT理解度も少しずつ増していき、働きやすい職場になりつつあります。

制度作りはこれからですが、実際にそこで働くLGBT当事者にとっては、こんな企業が働きやすい環境だったりします。