『カミングアウト・レターズ』

LGBT当事者からカミングアウトをされた場合に、どういう対応をしたらいいですか?ということを研修なども含めてよく質問されます。この対応の“正解”というのは非常に難しいです。カミングアウトをする側とされる側の関係性、カミングアウトの目的などによっても変わってきます。

本書では、ゲイ/レズビアンの子とその親や教師との往復書簡という形でストーリーが綴られています。家族への、身近な人への告白であり、初めてうちあける子どもの思いや母親の驚き、葛藤、そして受容などが実際の手紙からリアルに伝わってきます。18歳から82歳まで、7組19通の手紙と2つのストーリーによって構成されており、ゲイ/レズビアンの子をもつ親たちの座談も収録された書籍です。

カミングアウトをしようか悩んでいる当事者にも参考になりますし、カミングアウトを受けた人(特に家族)にとっても有意義な一冊です。

書籍概要

第一章 母へ、息子へ、娘へー家族のなかのマイノリティ
第二章 先生へ、生徒だったあなたへー教室の中のマイノリティ
第三章 この本を読んでくれたあなたへー親の座談会と著者解説

の3章から構成されています。

家族のなかのマイノリティには、5つの家族のカミングアウトのストーリーが書かれています。それぞれの家族の感じた思い、悩み、葛藤が描かれています。

教室のなかのマイノリティには、先生との出会いで救われた当事者の話が2つ書かれています。

第三章の座談会では、ゲイ/レズビアンの子をもつ親の座談会ということで近しい境遇の中で感じたことを共有しています。

印象的なコンテンツ

『社会を変えようなんてだいそれがこと思ってるわけやない。人がちょっと他人に優しくなれたら、と思うだけ』(P17)

これはカミングアウトをする最大の理由と語っています。

ゲイということを理由に子供の頃には疎外感を味わったけれど、ゲイだけの学校があったらそこには別の種類の小さな社会ができ、また別の少数派に対する偏見を生むかもしれない、と書いています。

LGBTへのダイバーシティ&インクルージョンを取り組むことは、他のさまざまなマイノリティへのダイバーシティ&インクルージョンにつながるといわれることがありますが、まさにそれを書かれています。

『あなたの遺伝子は、どこかの誰かが引き継いでいてくれるから、自分の血を引く子にこだわらなくてよい、といった目からうろこみたいな文章があって、気に入った』(P62)

これは孫や“家”を残せないことを気にしているであろうゲイの息子に対する母親の返信です。親へのカミングアウトの際には、親への申し訳なさを感じるゲイ/レズビアンが多くいます。その大きな理由の一つが子供を残せないということです。

このフレーズを読んだ、望んでも子供をもてていない異性愛者がとても共感していました。

『カミングアウトは、たんなる告白ではありません。突然のびっくりするような強風で片付けられるものではありません。された側とした側が、そこからさらに新しい関係を築くことが最終的な目的だと思うのです』(P137)

すべて深い告白は相手との相互理解を求めるための切実な声なので、あっさり受け流されると、そこから関係性が築けなくなってしまうと語っています。

感じたこと

本書は12年前に初版が出版されており状況が異なる部分もありますが、今でも多くの当事者がカミングアウトをしていない(orできない)というのは現実としてあります。

トランスジェンダーのカミングアウトと同性愛のカミングアウトでは目的や意味合いが違う部分がありえるし、また家族へのカミングアウトと企業内で上司や人事部門へのカミングアウトでは全く意味や重さが違うでしょう。それでも本書にかかれていることは、どのような想いでその人がこれまでの人生を重ねてきたかを想像する一助になります。参考までの一読をお勧めします。