トランスジェンダーは、戸籍の性別と性自認が異なるので働きにくい(生活しにくい)という声を多く耳にします。実際、トイレをはじめ男女で区分される設備や制度は社会にも企業の中にもあるので戸籍性と性自認が異なる場合に、どちらに分類されるのかという問題が生じやすいです。

一方で、性同一性障害と診断され、法律上の要件をクリアして戸籍上の性別を変更する人が年間約1000人います。戸籍上の性別移行が完了すると働きやすい(生活しやすい)という状況になるのでしょうか?

今回は、性別移行済みのFTMトランスジェンダーのKさんのお話をご紹介します。

私は、小さいころから自分のことを女といわれることにとても抵抗がありました。男の子かと聞かれると、その時々で揺れ動いていた時期もあったのですが、女ではないというのは一貫してあります。中学生の時にはこのような自認はあったのですが、高校はあえて女子高を選びました。女子高を選んだのは、当時はちゃんと理解できていなかった気がしますが、今考えると、共学にいくとどうしても目の前にいる男子と自分を比較してしまい、自分が男子とは違うというのを感じるのが嫌だったからだと思います。

女子高を卒業した後は、早く性別移行したいという思いが強くなり、20歳になったら手術を受けられるように、高校卒業と同時に働き始めました。

22歳のときには、タイで手術をうけて、晴れて戸籍変更もできました。戸籍変更をしたあとに、“男”として転職活動をしました。戸籍上は男性になったので、履歴書の性別欄も男性と書いたのですが、最終学歴が女子高なので、面接時にはどうしてもそこはカミングアウトをしなければなりませんでした。入社後も職場ではカミングアウトをせずに男性として働いていたのですが、まだパス度が低かったのもあって、一部の人からは、「女の子みたい」というようなことは言われていました。

今は、私は28歳です。仕事は一度、転職をしました。見た目もちょっと背の低い男性という感じになったので、今の職場では噂されることもなくなりました。女子高の関係で人事の人だけがトランスジェンダーであることを知っています。

働く上では、男性として全く問題はないのですが、気になるのは、トイレです。私の場合は手術はしていますが、トイレはやはり個室を使わないといけないので、毎回、個室をつかっているということには他人の視線が気になります。

あとは、今はコロナで大丈夫なのですが、以前は、社員旅行があったらしいので、もし社員旅行に行くとなるとそのときのお風呂は気になります。このあたりは、大きな問題にはなっていないのですが、常に気になるところです。

あとは、もっと気になるのは、私はまだ男性としては6歳の経験しかないことですね。男同士の恋愛話や下ネタへの反応、スキンシップなども、イヤというのではなく、どうしたらいいか分からず、他の人の反応を観察中という状態です。

昔は、戸籍変更をしたら、すっきり男として生きられると思っていたのですが、今は、やっぱりトランスジェンダーというのはついてまわるというのを感じています。

Kさんは性別移行を果たしましたが、ただそこにも想像していなかった難しさは残っているとのことでした。また同じ職場の同僚が、Kさんのことは全く知らずに、LGBTの話をしていたときに、とてもドキドキしたそうです。

戸籍も変更し、見た目も完全に男性にしか見られない状態まで来たことは念願がかなったと喜んでいました。多少の難しさはあっても、自信をもって生きていきたいと話してくれました。