契約企業の概要

全国に事業所を展開している保険会社A社。LGBT取り組みに関しては数年前から全社員向けeラーニングを実施し、また管理職向けLGBT研修なども定期的に行っています。制度面でもパートナーシップ制度を導入しており利用実績もあります。A社としてはダイバーシティ&インクルージョンを積極的に推進しており、一人ひとりが働きやすい職場環境づくりをすすめています。

相談内容

新卒でA社に入社して3年目のOさんから相談をいただきました。「転勤について悩んでいるのですが、どこまで企業に希望を出していいものでしょうか?」というものでした。

詳細に話を聞いてみると、最近、職場の上司との面談の中で、将来のキャリアアップの話になり、現在の職場が東京なのですが、地方への転勤の可能性について打診されたそうです。A社では新卒で入社して東京配属になった人は、3,4年後には地方勤務になることが慣例となっていました。Oさんもそのことは入社前から知ってはいましたし、地方で働くこと自体は問題ないのですが、Oさんはトランスジェンダーで治療を受けるにあたって地方にいくと通院の問題があるという悩みでした。

Oさんは戸籍女性ですが、以前からトランスジェンダーを自認し、就職活動においても男性として働ける会社というのも一つの軸で企業選びをしていたそうです。A社での面接でも、FTMトランスジェンダーであることをカミングアウトしたうえで、男性としての勤務を希望しました。Oさんは大学時代から、ホルモン治療を開始しており、面接時には既に声も低く、髪も男性らしい短髪だったこともあり、戸籍女性であることは自分から言わなければ、ほとんどバレることはないレベルだったそうです。

実際にA社に入社しても、戸籍はまだ女性なので人事部だけにはトランスジェンダーであることを伝えていたのですが、職場では上司には一切カミングアウトをせずに男性として働いています。トランスジェンダーの治療としては、現在はホルモン注射のために月に2回程度、クリニックに通っているのですが、1、2年のうちには性別適合手術を受けたいとも考えているそうです。

地方にいってもある程度、大きな都市であればホルモン注射は受けられる病院は探せばあるのですが、性同一性障害学会の認定医は全国で30数名しかおらず、その多くが東京に偏っているため、認定医に直接、診察を受けようと思うと、地方勤務は現実的にはかなり厳しくなります。Oさんも入社時から地方転勤の可能性は知っていて、その場合は地方のクリニックでホルモン治療を続ければいいと考えていたのですが、改めて手術を現実的に考えたときに、認定医に継続的に診察を受けたいという思いが強くなってきたとのことです。

もともと転勤の可能性をわかって入社し、周りの同期も本人希望とは関係なく転勤をしているので、自分だけ東京勤務を希望してもいいのか、やはり、自分が悪いのでそれはわがままになると思うから辞めるしかないか、と思い悩んでいました。

弊社の外部相談窓口対応

まず、性別移行の治療に関しては、全員初めてのことなので、途中で治療方法や治療の内容、通院する病院の変更などがあることは一般的によくあることなので、治療に関する考え方が変わったこと自体はOさんが悪いわけではないということをお伝えしました。そのうえで、Oさんの希望は個人的なことではあるものの、家族の介護などの理由で転勤ができない人もいるので、A社としてどのような対応が可能か相談してみましょう!とOさんと話したうえで、A社のダイバーシティ担当者と話をしました。

ダイバーシティ担当者はOさんがトランスジェンダーであることは当然、把握していましたが、転勤・配属に関しては、本人から特段の希望を聞いたことがなかったし、人事部内でも別の担当なので直接はタッチしていないとのことでした。ただ認定医の話など丁寧にご説明したところ、人事部内でも相談していただき、なんとかOさんの希望に沿った形での異動を検討するとのことになりました。Oさんは、手術時期には1か月程度の休業を必要とすることも想定できたので、それもあわせて相談をしておいたほうがいいと考えて、改めてOさんとダイバーシティ担当者と弊社で三者面談を実施し、今後の治療の希望と企業としてできる対応を相談しました。

 

当事者の中には、周りに迷惑をかけたくない、混乱させたくないといった気持ちを持つ方も多くいます。そのため人事部門はなんでも相談してほしいと思っていても、なかなか相談できないということもあります。

A社のダイバーシティ担当者は、LGBTといってもセクシュアリティによっても人によっても希望は異なるということをよく理解されていて、基本的に個別にできる範囲の対応をするという方針です。今回のご相談では、遠慮はあったものの、思い切って事情を丁寧に説明したところ、うまくいった事例でした。