LGBTという言葉の頭文字に含まれないセクシュアリティはたくさんありますが、その一つにノンバイナリーというのがあります。昨年、宇多田ヒカルさんがノンバイナリーであるとカミングアウトをしたことで、多少認知が広がりましたが、それでもあまり聞く機会は少ないのではないかと思います。

ノンバイナリーとは、性自認や性表現に関して男性/女性の二つの枠組みにあてはめない人を指します。日本ではXジェンダーという表現をする人も多くいます。

今回は、自分自身をノンバイナリーと自認するSさんの就活と働き方についてのお話を紹介します。

まず私のセクシュアリティからお話します。ノンバイナリーという自認ですが、それだけではなかなか伝わらないと感じています。具体的には、戸籍は女性なのですが、性自認は男女のどちらでもないという感覚です。戸籍女性だからと言って、女性らしさを求められるのはつらいですが、かといって男性になりたいとか男性だという意識もないです。

性表現としては、例えば服は自分に合うものであればいいと思っています。身長や体つきは変えようがないので、それに合っていればレディースでもメンズでも気にしないです。スカートも履くこともありますし、小さいサイズのメンズも着ます。髪型やメイクに関しても自由だと思っていて、その時の気分にもよりますが、自分に似合っているかどうかで判断しています。そういう意味では、スカートやメイクは「女性らしさ」の象徴という意識はないです。

小さいときから、こういう気持ちは持っていました。学校では男女に分けられることが多く、そのたびに違和感がありました。高校時代は女子高だったのですが、全員女子ということで男女に分けられなくて楽だった半面、全員が女子らしさを求められる部分もあり、そこは嫌でしたね。大学は、男女という枠が全然なくてよかったです。逆に就活から社会人になるときには、男女の違いというのを突き付けられた気がします。カミングアウトをしても伝わると思わなかったので、就活では一切、自分のセクシュアリティは伝えていません。

現在の職場では、何人かにカミングアウトをしています。直属の上司にも面談の際に話しましたし、飲み会の席で同僚に話したこともあります。ただ私自身がこんな状況だから周りからはなかなか分かってもらえない状況です。戸籍女性ですし、見た目も中性よりは女性よりだと自覚はしているので、トイレなどは女性用を使っています。服装はかなり自由な職場なのでそこは助かっていますね。

具体的な働きにくさというのは説明しにくいのですが、細かい部分で“女性”と区分されるたびに、ちょっとずつモヤモヤするという感じです。極論、女性用トイレを使用するたびにモヤモヤを感じています。男性用トイレをどうしても使いたいというわけでもないですし、誰でもトイレが必要と言うことでもなくて、トイレもその時の気分や人が並んでいないほうとかで自由に使えればいいなという感じですね。

このモヤモヤはSOGIハラというのともちょっと違う気がしますし、仕事を辞めたいとまで思わないですが、せめて誰か一人でもわかってくれる人がいたら、もっと働きやすくなるのでは、と思っています。

セクシュアリティに関することも、見てわかりやすい場合には周りも対応がしやすいですが、今回のSさんのように内心の部分はなかなか伝えることが難しいという声は多く聞きます。分かりやすい具体的な配慮事項の希望がない場合には、企業としても対応が難しいのですが、Sさんの抱えるモヤモヤも積み重なると本人の生産性の低下や仕事へのモチベーションの低下となり、最終的に離職につながるケースもあります。

職場は仕事をする場ではありますが、同時に長い時間を一緒に過ごす場でもあります。いろんな価値観や考え方の人が、直接仕事に関係ない部分であっても、素の自分を出せるということが大切という面もあるかと思います。