LGBTに理解のある企業は増えてきていますが、トランスジェンダーが自認性で働きたいと思っても、なかなか難しいのが現状です。経営トップや人事が旗振りとなってLGBT取り組みをしている企業であっても、部署や働き方によっては、なかなか希望の働き方ができないトランスジェンダーも多くいます。
特に社内であればまだ対応できる選択肢も多いのですが、他社への派遣の場合には、自社でできることが限られており、対応しきれないケースもあります。
今回は、派遣という働き方で困っているMTFトランスジェンダーのIさんの話をご紹介します。
私は、今、29歳のMTFトランスジェンダーです。子供のころから“男の子”というのに違和感がありました。いつか女の子になりたいと思いながら、なれないというのにずっと悩んでいました。高校を卒業した後は、正社員で働き始めたのですが、当時は、長髪でうっすらメイクをしていたので、「男か女かわからない」などといわれたこともあり、セクシュアリティの面でなかなか継続することができませんでした。
その後も、女性になりたいという気持ちは強いのですが、手術は怖くてどうしても受けられず、ホルモン治療とあとはメイクや女装を磨いてきました。身長が166cmと男性としては小柄なのもあり、二十歳を超えたころには、女性に見られることが多くなりました。そこから一つの派遣会社に登録してずっと派遣社員として働いています。この派遣会社は大手ではないのですが、その分、私の女性として働きたいという希望を聞いてくれて、働き方を一緒に考えてくれました。
派遣会社には、法律で、派遣先に派遣社員の名前と性別を伝えないといけないというルールがあるそうです。私は、できるだけカミングアウトをせずに女性として働きたいと思っていたので、通称名や自認の性別が使えないかを会社に相談してみました。会社も、私が女性として生活していて、見た目も女性なので、派遣先でも大丈夫だろうということで、通称名と自認の性別で働くことを認めてくれました。
その点では、この会社はとても良くしてもらえたと思っています。ただ派遣社員として資格をとってスキルを上げていく中で、私の希望にあった派遣先が紹介できない、ということになり仕方なく派遣会社を変えることにしました。
転職活動をする際に、派遣先の案件が豊富なことと、セクシュアリティに理解がありそうということで大手を中心に相談をしてみたのですが、どの会社もこれまでのような女性としての働き方は難しいとのことでした。女性の服装やメイクは、派遣先に理解があれば可能だけれど、そもそも戸籍上の名前と性別は絶対に伝えないといけないとのことでした。
前の派遣会社で通称名と自認の性別を使用したことを伝えても、それはできない、とのことで困っています。人材系の会社なのでLGBTへの知識は比較的あると思いますし、PRIDE指標なども受賞しているのですが、難しいようです。
派遣法第35条によって、派遣会社は派遣する労働者の氏名と性別を派遣先企業に通知することを義務付けられています。これが規定されている趣旨は「派遣先における労働関係法令の遵守を担保することにある」とされています。つまりトイレや制服、更衣室、夜間勤務の安全、セクハラなどに関する配慮をしやすいようにという趣旨です。その意味では、必ずしも戸籍の性別にこだわらなければならないということではないのですが、派遣会社によっては、より保守的な対応として戸籍上の取り扱いのみに限定している場合もあります。
Iさんは、結局、大手の派遣会社ではどこも登録できず、案件があまりないのですが、柔軟に対応をしてくれる中小の派遣会社に登録をして、マッチした案件が見つかるのを待っている状況です。