『先生と親のためのLGBTガイド』

FTMトランスジェンダーの当事者として、LGBTの子ども・若者支援にかかわってきた遠藤まめたさんの著書です。タイトルの通り、子どもが安心して学校や家庭で生活できるように親や先生が知っておきたいことにフォーカスし、簡潔にまとまっている本です。

LGBT当事者の多くは、周りにカミングアウトをしているかは別にして、子どものころから違和感を抱えて、学校生活で悩んでいるケースはとても多いので、先生には是非、読んでいただきたいですし、Q&A形式でかつ平易な文章で書かれているので、入門の一冊目として多くの人に幅広くおススメです。

書籍概要

目次

第1章 LGBTってどんな人びと?いまさら聞けない10のギモン

第2章 LGBTの子どもたちの悩みごと

第3章 教師・大人ができること

第4章 大人へのインタビュー LGBTの子どもと向き合う

第5章 もっと知りたい方へ

印象的なコンテンツ

『LGBTフレンドリー度をチェックしよう』(P6)

個人としてのチェック項目10個と学校としてのチェック項目7個が記載されています。企業のLGBTフレンドリー度合いのチェックリストは、制度面の充実度合いを測るものが多いですが、ここでは、より風土に近い部分をチェック項目としています。読者個人として、あるいは学校や職場として何個当てはまるか、確認してみると良いでしょう。

巻末には、各チェック項目についての解説がかかれていますので、あわせて読むと参考になります。

『自分の性に悩む』『同性が好きな自分が怖い』『自分が何者かわからない』『自己肯定感が低い』(第2章)

LGBTの悩みの根本はアイデンティティに関するものと言われることがあります。特に思春期は自我に目覚め、恋愛について関心が高い時期だからこそ、自分自身について悩みが深くなります。大人になっていく過程で、アイデンティティを自分なりに整理し受け入れることで、自己肯定感が高まり自信をもって生活をしていけるようになる人もいますし、その過程の中で、なかなか自信を持てないという人もいます。

『性別の扱いを事前に検討しておく』(P129)

性別の扱い(服装、トイレ更衣室の利用、体育プール授業への参加、健康診断、宿泊、氏名など)については、事前に対応を検討しつつ、しかし、実際に相談があった際には、『本人と一緒に考える』『プロセスを大切にする』ということがかかれています。一律の対応ではなく、どんな反応が想定されるかを確認しながら一つ一つの項目を本人と話し合うということの大切さを説いています。

感じたこと

LGBT取り組みに関しては、学校と企業では重なる部分もありますが、大きく異なる点もあります。特に学校でも教職員向けであれば、職場という括りで近い部分が多いのですが、児童生徒向けで考えた場合には、次のような点が大きく異なります。

  • 学校は企業に比べて、多様性(年齢や出身地など)が少ない
  • 職場は仕事とプライベートを分けやすいが生徒は友達付き合いも含めて学校とプライベートが不可分
  • 転校は転職に比べて選択肢が少なくハードルが高い
  • 生徒は未成年のため、自分一人で大きな決断ができない(保護者の同意)
  • 思春期は恋愛や自我への悩みがそもそも多い

このような点から、学校での取り組みというのは、企業における取り組み以上に深く踏み込むことが求められるケースが多くなります。

一方で、企業で働いている人の多くは、このような学校生活での悩みを経験してきているので、このような背景を知っておくことは、大人になった当事者と接するうえで役に立つ場合もあるかと思います。

先生とLGBTの子供をもつ親はもちろん、大人同士のコミュニケーションにおいても参考になることがいろいろある書籍です。