『差別は思いやりでは解決しない ジェンダーやLGBTQから考える』

LGBT当事者に対する法整備を進めていくことを目的としている「LGBT法連合会」の事務局長である神谷悠一さんの著書です。人権やジェンダーの話は“思いやり”が大切という考えの人も多くいると思います。しかし、“思いやり”では差別は解消できないということを、本書では訴えています。

企業のLGBT取り組みにおいても、“アライ”を増やすということは大事だと言われますが、アライとはどんな人なのでしょうか?“思いやり”のある人でしょうか?企業としてどのように取り組みを進めていくべきか、根幹の部分を考えるきっかけになる良書です。

実際に、LGBTの取り組みを進めている担当者におススメの一冊です。

書籍概要

思いやりを大事にする「良識的」な人が、差別をなくすことに後ろ向きである理由とは――。

「ジェンダー平等」がSDGsの目標に掲げられる現在、大学では関連の授業に人気が集中し企業では研修が盛んに行われているテーマであるにもかかわらず、いまだ差別については「思いやりが大事」という心の問題として捉えられることが多い。なぜ差別は「思いやり」の問題に回収され、その先の議論に進めないのか?

女性差別と性的少数者差別をめぐる現状に目を向け、その構造を理解し、制度について考察。

「思いやり」から脱して社会を変えていくために、いま必要な一冊。

「あなたの人権意識、大丈夫?

“優しい”人こそ知っておきたい、差別に加担してしまわないために――。

 

目次

第1章 ジェンダー課題における「思いやり」の限界

第2章 LGBTQ課題における「思いやり」の落とし穴

第3章 「女性」vs.「トランスジェンダー」という虚構

第4章 ジェンダー課題における制度と実践

第5章 LGBTQ課題における制度と実践第

印象的なコンテンツ

『「思いやり」や「優しさ」といったものが、「かわいそう」ではない人、まして「気に食わない」人を相手に発揮されるかというと、怪しいように思います』(P4)

本書冒頭のはじめに、の部分に書かれています。これが“思いやり”によるアプローチの危険な部分の本質です。“思いやり”という言葉は美しい言葉だけに、思いやりによるアプローチが空回りしている事例を詳しく紹介しています(第1章、第2章)。

『日常会話一つひとつに冷や汗を浮かべながら、コミュニケーションを取っている、または取らざるを得ない当事者は、学校や職場を中心に多くいます』(P74)

LGBTQといっても、セクシュアリティによる違いは非常に大きいです。ただその中で一番、共通する点としては、このカミングアウト/アウティングと言う問題があります。この共通点をしっかり認識しておくことは、LGBT取り組みを進めていくうえでは、とても大切なことだと思います。

『LGBTQの課題は、マニュアル化にすら至っていないところにあります。一部の人の職人芸のような取り組みはあるけれど、それ以外の人はマニュアルすらないので「思いやり」にとどまってしまっているのではないか、というのが本書の問題意識』((P89)

思いやりだけでは解決できないからこそ、マニュアル化、施策化というものでの解決を提唱しています。
企業に関連する具体的な制度としては、次のようなものが例示されています。

  • “啓発”の制度化(定期的な研修など)
  • 差別的な取り扱いの明示
  • 職場の施策を計画的に実施するための法整備

一方で、職場の環境改善を定量的に把握する指標については、今後の課題としています。

感じたこと

思いやりだけでは、解決が難しいという主張に関しては、日々、現場を見ている立場からもとても共感できます。一定のルール(職場でのガイドラインや法令など)があることで、より働きやすくなるというのもその通りだと思います。

一方で、個別性の高い課題だけに誰もが同じ行動をとれるマニュアルを作成するのは難しいとも感じます。ルールを運用するのは最終的には“人”になるので、そこには思いやりや理解というものも大切になってくると思います。

アライとはどんな人か?どのようにアライを増やしていくか?

思いやりや共感を増やしていくという方法と、適切なルールを定めていくことのバランスを考えさせられる一冊です。