『カミングアウト』

2014年に制作された犬童一利監督の初の長編映画で、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭などでも上映されています。

カミングアウトは、人によっても、カミングアウトをする相手によってもさまざまですが、いずれにしてもカミングアウトをするかどうか、どのように話すかなど悩み葛藤することが多いです。

主人公はどこにでもいそうな大学生です。主人公は悩みながらも、いろんな人にカミングアウトをしていきます。低予算で登場人物も限られており、エンターテイメント性には欠けるところはありますが、カミングアウトの一つの形を知るという意味ではおススメの映画です。

ストーリー

~きっとあなたの価値観変わります~「世界がもし100人の村だったら、そのうち11人は同性愛者だそうです。統計学的には2%から10%位と言われています。およそクラスに1人いるということになりますね。多くの当事者がそれを隠しています。なぜでしょう」

陽はゲイの大学生。サークルの同級生で親友の昇に片想いをしているが、大学のサークル仲間にも、一緒に暮らす家族にも、ゲイである事は隠している。唯一、新宿二丁目の行きつけのBarB♭ではありのままの自分でいられる。以前に比べれば、セクシュアルマイノリティも少しずつ生きやすい時代になってきた。しかし仲間達との友情や恋愛の他にも、就職や結婚など将来への不安は尽きない。

過ぎ行く日々の中、陽の周囲に起こる様々な出来事。いつしか、陽の中にある思いが生まれ始めていた。葛藤の末に陽が進む道とは…。

印象的なシーン

「彼女っていうか、彼氏なんだけどね。実はゲイなんだ」

自分に気がありそうな女の子の後輩に「最近、彼女さんとどうなんですか?」と尋ねられた時にカミングアウトをしたシーンです。直後に、相手の雰囲気が変わったのを察して、すかさず「いやー、冗談だよ」とごまかすことに。

「本当は、彼女とかいないんだ。俺さ、ゲイなんだ」

初のちゃんとしたカミングアウトは家族で一緒に暮らしているる姉をわざわざ居酒屋に呼び出してしました。姉の反応は「よし、今日はお姉ちゃんが奢ってあげるから、あんたはどんどん飲みなさい!」。自分の感想や意見などはほとんど言わず、ただ黙って受け止めました。

「実はさ、おれゲイなんだ」

自分の親友であり、片思いの相手の家に遊びに行き、泊まったときにカミングアウトをします。「えっ!?まじ?そっか。陽、襲うなよ」と返します。“襲うなよ”というフレーズは言い方によっては非常に傷つけるものですが、それも二人ともわかってうえでの冗談として言ったように見えました。そのあとも二人の仲の良い関係は変わることなく続きます。

「姉ちゃんはもう知っているんだけどさ。実は俺、ゲイなんだ」

両親に対してのカミングアウトシーンです。「お前はまだ子供だから自分でもよくわからないんだろう」「そうよ、そのうち治るわよ」「おかあさんのせい?」と両親は動揺し、母を泣かせてしまいます。それでも、時間の経過とともに母も受け入れようとしてくれます。

感想

この映画ではいくつかのカミングアウトがでてきます。その中には問題視されるフレーズもありますが、それでも比較的周囲は受け入れてくれています。LGBT当事者がみても、この葛藤を伴うカミングアウトがリアルと感じる人もいますし、周りの対応が優しすぎてリアルではないと感じる人などいろんな感想があります。

カミングアウトにより、自分を知ってもらうということは、人間関係が変化することにつながる場合もあります。だからこそ最後の場面の「ここからがスタートだからね」という主人公のセリフがとても心に残ります。