企業でのLGBTの取り組みは徐々に広がりつつあります。
研修やパートナーシップ制度が導入されていなくても、既存社員からカミングアウトがあった場合にはなにかしら対応をとるという企業もあります。
しかし、そういう企業で働いていても、十分に相談ができずに不本意ながら退職をせざるを得ないというケースもあります。
今回は上司など職場の理解はあったものの、結局、退職という選択肢を選んだトランスジェンダー男性のNさんのお話をご紹介します。
私は新卒で入社して2年働き、先日、退職をしました。
退職理由は、セクシュアリティに関することです。私は戸籍は女性ですが、小さいころからそこには違和感があり、洋服や遊び方などは男の子っぽい感じで育ってきました。
ただ、兄と弟がいるからか、両親は私を女の子らしく育てたかったみたいで、中学高校と女子校にいかされました。
女子校では、スカートの制服は嫌でしたが、男子がいないというのは、逆に自分の性別をあまり意識せずに楽だった部分もあります。大学に進学したころには、トランスジェンダーという自認がありました。仲の良い友達にはカミングアウトをした人もいるのですが、両親にはなかなかできませんでした。
そんな中で、就活の時期になりました。就活時は興味のあった金融業界を中心に応募をしました。
就活ではカミングアウトをして男性として応募することも考えたのですが、まだホルモン治療などもしていなかったのもあり、髪は短かったけれど、一応、女子のリクルートスーツなどで就活に臨みました。
入社した会社の面接でもカミングアウトをすることなく、そのまま内定、入社となりました。就活が終わって、入社前にホルモン治療を開始したかったのもあり、両親にカミングアウトをしました。両親はある程度、察していたようで、すんなりとはいかないまでも、一応、受け入れてくれました。
実際に入社して働いてみると、女性だけ制服があったり、仕事内容も明文化されていないところで、男女の違いは感じました。
これは就活の面接時などにもいろいろ話を聞いていたので、ある程度わかっていたことではあるのですが、実際に日々、このような生活になるとやはりストレスを感じていたような気がします。入社して半年ほど経ったときに、上司とキャリア面談があり、そのときにトランスジェンダーであることをカミングアウトしました。準備してカミングアウトしたというより、勢いでいったという感じですね。
ただ、女子として入社しているので、トイレや制服などでは特に具体的な希望をだすことはなく、とりあえず知ってもらうという形にしました。
その後、しばらくして、人事担当の役員と面談する機会があり、役員からは、『できるだけ働きやすいようにするから、なんでも希望があれば言って』という言葉をいただきました。
普通は役員との面談はないので、わざわざ設定していただいたんだと思います。そのような配慮にはとても感謝していたのですが、一方で、治療が進むにつれて、やはり女性として働いていくのが辛くなってきて、2年経ったところで、退職をしてしまいました。
仕事自体は嫌いではなかったので、次は、これまでの経験がいかせる職場で、男性として働けるところがあれば、いいなと思って転職活動をしています。
Nさんの職場は、Nさんと話し合う場を作り、耳を傾けようとしていましたが、結局、Nさんは本音で相談できずに、退職を選んでしました。
Nさんは、女性として入社している以上、そこで男性として働くというのは自分のわがままだし迷惑をかけたくないと言っていました。退職理由は会社にはあまりきちんと伝えられなかったそうです。
就活生の場合には、一般的に入社前(就活時)に入社後の働き方をちゃんと想定することは難しいです。特にセクシュアリティに関することは、明確になっていなかったり、ロールモデルがいなかったりするので、よりギャップが生じやすい傾向があります。
この企業の対応は間違ってはいなかったのですが、もう一歩、Nさんの気持ちを想像して歩み寄れれば、また違った結果になっていたかもしれないです。