『ECHOES(エコーズ)』。
第7回「このマンガがすごい!」大賞最優秀賞を受賞した作品です。

高校生の女子バスケットボールを軸とした友情や青春をテーマにした漫画です。
主人公がトランスジェンダーですが、トランスジェンダーであること自体は、ストーリー展開上はそれほどクローズアップされていません。なので、LGBTをテーマにした漫画というよりは、属性の一つがトランスジェンダーだという人物が主人公のスポーツ青春漫画というほうが良いかもしれません。

主人公以外のキャラも魅力的なので、それぞれの背景や今後どうなっていくのかなど興味を惹かれる漫画です。
※一応、一冊で完結しています。

LGBTがテーマではないけれど、トランスジェンダーがでてくる漫画を読んでみたい、バスケ漫画を読みたいという人におススメです。

書籍概要

新緑高校1年女子バスケットボール部所属、五十嵐青(いがらし・せい)。
青は、卓越したバスケセンスを持ちながらもチームから浮いている無愛想な少女、飛鳥のことが気にかかる。
全国を目指す中、次第に絆を深めていく2人。チームを導くために切磋琢磨、成長していく仲間たち。
そして、青が抱く想いは、友情なのかあこがれなのか、それとも……。

本格女子バスケマンガ×トランスジェンダー。新しい青春スポーツマンガが、今、始まる。

印象的なシーン

『おまえへんなの!』
『おんなのこはさあ、じぶんのこと“おれ”ってよばないんだよー』
『青(せい)はだれが好きなの?』
『(男の子たちのまだ声変りをしていないという会話を聞いて)おれもまだしていない・・・』
『やっぱり、おれはみんなと違うみたいだ』

この漫画の中では、戸籍が女性の青(せい)が他の女の子に恋心を抱いているのを感じさせるシーンは何か所かでてきますが、性自認についての描写はほぼここだけになります。

著者インタビューより

著者の歩さんはインタビューで、本作は自分の体験を元に書いていると答えています。
歩さんは、本作の原型を書いていた中学生から高校生当時には女性としての自分の性に違和感があったものの、自分がトランスジェンダーという自覚はなかったそうです。
『自分は男の心を持ちながら、“女子”として女の子たちのなかに入って“女子の運動部”を体験させてもらったみたいな感覚があります』と振り返っています。

実体験としてバスケ部に入部してハードな練習をし、同時にチームメイトとケンカなどぶつかり合いながらも純粋な心のやり取りがあり、それを描きたかったと答えています。

高校のバスケを引退していろいろ考える時間ができてから、自分の性的指向や性自認に向き合うようになり、19歳の時にトランスジェンダーという自覚をはっきり持ったそうです。

感じたこと

トランスジェンダーとレズビアンは、性自認と性的指向の話で全く別ではありますが、実際には、著者の歩さんのように最初は同性愛者という自覚があり、その後、自分は同性愛ではなく性自認がトランスジェンダーであると自覚するケースも多くあります。
実際に歩さんは、中学生の時に、上戸彩さんがトランス男性役を演じたTBSドラマの金八先生を見たときも、自分自身がトランスジェンダーであるという自覚はなくレズビアンだと思っていたそうです。

トランスジェンダーであるという自覚を経てからの、漫画、書籍、映画などは多くありますが、その手前のストーリーはあまり多くはありません。
LGBTがメインテーマにはなっていませんが、これも自覚のないときのトランスジェンダーのリアルだと感じます。

青春スポーツ漫画が好きな人にはお勧めです。