LGBT当事者が転職をする場合、その理由は、仕事内容や給与水準、キャリアアップなどもありますが、SOGI(性的指向と性自認)に関する働きにくさが原因の場合もあります。
今回は、中途採用の面接から入社手続きまででの苦労や不安についてHさん(ゲイ)のお話をご紹介します。
私は30代の会社員です。
現在のパートナーとは10年以上一緒に暮らしています。
これまで職場で自分がゲイであることを話したことはありません。
隠したいというより、仕事とプライベートは分けたいという感覚でした。
特別な配慮を求めたいわけでもなく「普通に仕事をして、普通に評価されたい」ただそれだけでした。転職を考えたきっかけは、前職の職場環境でした。
その会社の営業部は体育会系の雰囲気が強く、距離も近い職場でした。
飲み会では恋愛話が定番で「彼女は?」「早く結婚しろよ」といった会話が当たり前に飛び交います。
私はそうした話題をいつも笑ってやり過ごしていました。
すると、周囲から「お前ってちょっとオカマっぽいよな」「もしかして、そっちなんじゃない?」と言われることもありました。
言っている人は、ほぼ冗談なんだと思いますが、それでも、そういうことが何回かあると、次第に職場にいること自体が苦しくなっていきました。もちろん人事部に相談することもできたのですが、それはカミングアウトすることを意味します。
そこまでして今の会社に居続けたいとは思えませんでした。転職活動では、どの会社の面接でも「退職理由」について聞かれました。
本当の理由を話そうか迷ったこともあります。
しかし、職場でのカミングアウトを希望していなかったのもありますし、面接の場で変な先入観で見られるのも嫌だったので、結局、私はどの会社でも「キャリアアップのためです」と答えました。
それは嘘ではありませんでしたが、一番大きな理由ではありませんでした。ありがたいことに、希望していた会社から内定をいただきました。
「今度こそ、落ち着いて働ける会社だといいな」と思いながら入社手続きを進めていました。
ところが、入社書類の中に「緊急連絡先」を書く欄がありました。
前職では、何も考えずに実家の両親を書いていましたが、もう何年も離れて暮らしています。
もし自分が事故や病気で倒れたら、一番先に連絡を受けてほしいのは、毎日一緒に暮らしているパートナーです。
かなり迷った末に、、パートナーの名前を書きました。人事担当者に書類を提出するときに、私は意を決して「一緒に暮らしている同性のパートナー」がいることを自分から伝えました。
担当者は一瞬だけ間がありましたが、「承知しました。ありがとうございます」と、受け止めてくれました。
「当社では、同性パートナーであることで差別などはありませんからご安心ください。何かあったらいつでもご相談ください」と言って、入社の握手を求められました。
そのやり取り自体は、ほんの数十秒だったと思います。カミングアウトをしたかったわけではありません。特別扱いも求めていません。
ただ、自分に何かあったときに、本当に大切な人へ連絡してほしかっただけです。
私はその対応にとても救われました。
Hさんのように、必ずしも職場でカミングアウトを望んでいるわけではないというLGBT当事者は少なからずいます。
一方で、入社手続きや福利厚生、緊急連絡先など、業務上必要な場面では、結果として自身のプライベートを伝えざるを得ないケースがあります。
Hさんに関しては、その後、入社前にその人事担当者から、緊急連絡先については人事部門のみに共有されている情報で、配属先には伝わらないということ説明があったそうです。
知らないところで、噂が広がらないか、少し心配していたので、その説明は安心感につながりました、とHさんは話してくれました。




