『性転師』
日本では戸籍の性別変更をするためには、性別適合手術が必須要件になっています。また戸籍変更とは関係なく、自分の身体に強い違和を感じて手術を望む人もいます。
現在、日本人で戸籍変更をする人が毎年約1000人程度います。その人たちが性別適合手術を受けるのは主に、日本とタイの2つのパターンがあります。このような性同一性障害という診断を受けた人たちが実際にどのような手術をうけるのか?特にタイでの手術ってどんなものなのか?
本書ではタイで手術を受けたいトランスジェンダーをアテンドする「性転師」に焦点をあてて、性別適合手術について迫っています。
なぜ、タイで手術を受ける人が多いのか?性別移行手術の日本の歴史は?表紙からも帯からも怪しさがひしひしと伝わってきますが、実際に読んでみると、いろんな立場の人にしっかり取材・インタビューをしています。LGBT当事者でもなく、その周囲の人でもない共同通信社の記者が客観的な立場で書いており、とても分かりやすいノンフィクション作品となっています。性別適合手術に興味がある人におススメの一冊です。
書籍概要
「本当の自分を取り戻しませんか?」。手術難民の日本人をタイに連れ出す彼らは天使か。悪魔か。性転換ビジネス影の実力者「アテンド業」の実際に迫る迫真ルポ。
『正規の手術というデリケートで命にもかかわる事象に、医療従事者でもなく、国や公的機関でもなく、大企業でもなく、一民間人が深くかかわっている、関わらざるを得ない状況自体を性転師というグレーな響きに込めた』(P11)と、著者の造語である性転師という言葉を説明しています。
印象的なシーン
『タイでも約20年前は性別適合手術について当事者が堂々と話せるような雰囲気ではありませんでした。ヤンヒー病院は、敢えて『性別適合手術の専門医が在籍している』と堂々と宣伝しました。さらに、失敗しても修正手術をするし、金銭的な補償もすると打ち出しのです』(P65)
タイの性別適合手術の大手であるヤンヒー病院のスポット院長の言葉です。タイで性別適合手術が盛んになったのは1997年のアジア通貨危機以降です。タイバーツ下落とともに、医療ツーリズムが推進されその一環で性別適合手術も行われるようになってきたのです。
『幼少期から性別の違和感に悩み、親にもうまく相談できず、自分らしく、自信を持って行動することが難しくなっている人が多いのではないか。だから準備や交渉事をまるごとお願いできるコースを選ぶ。』(P104)
アテンド業界での第一人者であるG-pitでは先駆者の競合他社に対抗するために料金をさげたパックを用意したものの、一番人気は最も高いVIPコースの注文が多いことに対しての見解です。このVIPコースは国内の大学病院で保険適用なしの場合とほぼ同額になります。
アテンドという仕事の価値は、病院探し、通訳、航空券やホテルの手配など個別のサービスがあるものの、一番は不安を解消するという点にあるのかもしれません。
『なぜ日本での性別適合手術が困難なのか』(P196)
タイでの手術が盛んであり、性転師が活躍することの背景は、日本での性別適合手術が困難であるからこそ、という大きな背景があります。
法的な問題、タブーの問題、費用の問題など、歴史を振り返りながら現状の問題点まで具体的に示しています。
感じたこと
性別適合手術をうけるトランスジェンダー、執刀する医師、それのアテンドをする性転師の3者のインタビューを深堀しているからこその、なまなましい話もたくさん載っています。
アテンドの費用を各社のHPから転載していますが、何倍もの価格差があります。具体的な手術の内容、術式の説明、FTMとMTFの違い。人工の男性器をよりリアルに見せるための彫り師の話まであります。性別適合手術とはどんなものか?という人から、実際に自分で受けようと考えている人までとても参考になると思います。
また本書ではタイについては、性別適合手術の先進国として紹介されています。LGBTに理解のある国と一般的に思われていますが、一方で性別変更は法的に認められていないのが現状です。理解があるとはどういうことなのか、考えさせられる部分もあります。
性別適合手術を詳しく知りたいという人におススメです。