『スカートはかなきゃダメですか?ジャージで学校』
N.Y.を拠点に世界各国で公演している男性だけのバレエ団、トロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団に初の日本人ダンサーとして活躍した名取寛人さんが女として生まれて男になるまでと、夢の叶え方について語った本です。
基本的には、LGBTをテーマにした本!というよりは、ある人がダンサーを夢見て、その夢を叶えていく話です。その本人がトランスジェンダーという属性であったために、それにまつわる話も出てくるというバランスで書かれています。
著者の信念と明るさが感じられる本です。
書籍概要
目次(抜粋)
- 少年のような少女時代
- 夢はサーカス
- 自分を呼ぶときは「僕?」「私?」
- 体操の特待生で高校へ
- どっちも当てはまらない自分
- ニューヨークへ行くことを決意
- 胸の手術
- バレエとの出会い
- 人生初のイジメ
テーマごとに見開きページで書かれており、とても読みやすいです。重くなりそうな部分も含めて、コミカルなタッチでかかれているのもまた読みやすさにつながっています。
印象的なコンテンツ
『僕が感情移入するのは浅倉南じゃなくて上杉達也。何を読んでも感情移入するのは男性のほうだった』(P53)
これは性自認をよく表しています。無意識のうちに自分を男性に重ね合わせているということで、トランスジェンダーの性自認の傾向としてよく耳にします。
『本人が身体を変えたい場合は違和感のあることを解消しないと、たとえ戸籍の性別を変えたとしても解決にはならないのかな、とも思うのだ』『性別を変えるということは、そこまでの覚悟があって許されることなのかもしれない』(P127)
戸籍の性別を変更するために、日本の法律上、性別適合手術が要求されており、これが人権侵害ではないかという考えに対しての記載です。
著者も、性別適合手術については自由に選択できると良いという前提で書いていますが、一方で自分自身としては、手術を受けるきっかけとなったという意味でこの法律には前向きな意見も持っています。
『僕は毎回「腹を壊しちゃったよ。あ~、腹が痛い」などといいながら個室を使っていた』(P135)
ニューヨークでは完全に男性として生きていたにも関わらず、男子トイレを使う際には個室が必須だったことを振り返っているページです。
こういうことはLGBT当事者にはわりと多く、周りが感じている以上に、自分自身が意識をしているというケースです。名取さんも後から、『そんなことを言わなくてもよかったのに』と回想しています。
『「ありのままの自分」とは「男性であること」だと思っていた。でも、違うと気が付いた。過去に女性だったこと、現在に至るまでのすべてをひっくるめたのが「ありのままの自分」なのだ』(P168)
「ありのままの自分」というフレーズはよく使われます。でも「ありのままの自分」とは、一体どんな自分でしょうか?名取さんも試行錯誤して、現在はここにたどり着いています。
感じたこと
名取さんは31歳のときに日本人初のトロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団に入団しています。このバレエ団はすべて男性のみで、名取さんも当然!?男性として入団しています。そこはゲイの世界なのですが、名取さんの性的指向は女性なので、シスジェンダーのヘテロセクシュアル(男性の異性愛者)と思われ、いじめにも会います。これもダンサーとしての夢のために乗り越えていきます。
最後に、『落ち込んでいる場合じゃないよ。さあ楽しみを探しに行こう!!』というフレーズがあります。
トランスジェンダーの読者はもちろんですが、セクシュアリティに関係なくすべての人に夢と希望を与えてくれる本です。