『LGBTと労務』

社労士の手島美衣氏、弁護士の内田和利氏、長谷川博史氏3名の共著によって書かれた労務管理にフォーカスしたLGBT関連書籍です。

2021年4月に刊行されたばかりの本なので、最新の事例も踏まえた内容となっています。労務管理に絞った内容なので、ダイバーシティやハラスメント担当者におすすめです。

書籍概要

目次

  • 性の多様性
    LGBTの基礎知識の説明です。歴史やセクシュアリティとはなどの説明が一通りされています。セクシュアリティの課題は文化とも密接に関係しているので、その意味で歴史や海外との相違の確認は興味深いです。またセクシュアリティを決定する要因として、性嗜好(どのようなものに性的魅力を感じるか)を含めて考えているのは珍しいです。
  • 職場におけるLGBT施策と労務管理
    LGBTに関連するものも含めたハラスメント全般について書かれています。パワハラ防止法に定められている相談窓口の設置に関しても。どのような相があるか、また相談への適切な対応などにも触れられています。
    随所に記載されている、当事者の声は、職場の出来事のなかでの嫌だったこと、困ったことだけでなく、嬉しかったことなども書かれており、参考になるかと思います。
  • 規程例
    ハラスメント防止規定や社内パートナーシップ制度に関する規定のフォーマットが紹介されています。実際には企業ごとに規程の構成は異なるので、そのまま活用するのは難しいかもしれませんが、規程の見直しの際には参考になる部分もあるかと思います。
  • ケーススタディ(LGBTと法務)
    採用やハラスメントなど、場面に応じた設例が8つ紹介されています。法的な観点からどのような対応が望ましいかという解説付きです。実務的にはこのような法的な問題になる前に相談をできる体制や文化を作ることが望ましいのですが、仮に係争になった場合のリスクや対応の参考になるかと思います。
  • 関連裁判例
    関連する裁判の事例が14件紹介されています。
  • 企業インタビュー

印象的なコンテンツ

「あなたがこれからカミングアウトする場合には、カミングアウトを受ける側は、カミングアウトを受ける覚悟を持てていないことを頭においていただきたい」(P41)

この本の読者は企業の労務管理担当者を想定しているかと思いますが、アウティングとカミングアウトと題したコラムの中で、当事者に向けてカミングアウトをする際の意識を書くのは非常に珍しいです。アウティングは良くないのは当然ですが、実際にはアウティングがいけないことを知らない人もまだ多くいますし、カミングアウトを受けた側が負担を感じることがあるのも事実です。カミングアウトは自分と相手の関係性の問題なので、良好な関係構築のために相手の状況を思いやる気持ちが大切ですね。

「まずは少人数ででも対話することだ。違和感を語ってもいいと思う。対話を通じて自分の想いを言語化し、他人の感じ方に触発されたりして、さらに深めていく過程で、1回の研修よりも大きな発見がもたらされることもあるだろう」(P55)

これは「社内研修をより効果的に活用するために」というタイトルのコラムに五十嵐ゆり氏が書かれています。研修を研修時間だけで終わりにするのではなく、日常生活の中での関心や行動につなげることで、研修が単独で終わらず、より効果があがるということですね。

感じたこと

企業のダイバーシティ担当者が教科書として読むのにとても参考になる本だと思います。

僕が、日々、仕事や職場に関しての悩みをLGBT当事者の方から聞いていて感じるのは、当然ですが一人一人感じていること、悩んでいることが違うということです。この書籍で入門的な部分を理解したうえで、次のステップとしては、一括りにはできないいろいろな事例(企業もLGBT当事者も)を知っていくことが、自社のダイバーシティ&インクルージョンを進めるうえでは役に立つと思います。