『あいつゲイだって アウティングはなぜ問題なのか?』
ゲイであることをオープンにしながら、一般社団法人fairの代表理事として、web媒体への記事執筆などで活躍している松岡宗嗣さんの著書です。
本書では、「アウティング」という言葉が日本社会で広く認知されるきっかけとなった「一橋大学アウティング事件」の経緯からはじまり、アウティングの問題点や法制度など、アウティングの関連事項を幅広く網羅されています。
アウティングについて一通り知りたいという人におススメの一冊です。
書籍概要
2021年11月は「一橋大学アウティング事件」の控訴審判決から1年にあたる。「パワハラ防止法」により、2022年4月からは中小企業でもアウティングの防止対策が義務付けされることになっている。
なぜアウティングは「不法行為」と判断されたのか? そもそもなぜ、性的指向や性自認といった個人情報の暴露が「命」の問題につながってしまったのか?
実は、一橋事件の前からこうした被害は起きていたし、現在も起きている。学校や職場などの身近な人間関係、不特定多数に瞬時に情報を発信できてしまうネット社会において、誰もが加害者にも被害者にもなり得るのだ。
校舎から飛び降りたのは、私だったのかもしれない――。勝手に伝えることが誰かの「命」を左右する瞬間を、痛みとともに、ひとりの当事者が描き出す。
一橋事件を一過性のものとせず、被害を防ぎ、これ以上「命」が失われないためにも、いま改めて考えたい「アウティング問題」の論点!
目次
第1章 一橋大学アウティング事件―経緯
第2章 アウティングとは何か
第3章 繰り返される被害
第4章 一橋大学アウティング事件―判決
第5章 アウティングの規制
第6章 広がる法制度
第7章 アウティングとプライバシー
第8章 アウティングの線引き
第9章 アウティングのこれから
終章 アウティング、パンデミック、インターネット
印象的なコンテンツ
『なぜ、アウティングが「問題」になるのか?それは、この社会に性的マイノリティに対する差別や偏見が根強く残っており、「いないこと」にされている当事者の性のあり方が暴露されることで、不利益につながる可能性があるから』(P43)
アウティングがダメというのは、よく言われますが、なぜダメなのか?本質的にはアウティング自体が問題なわけではなく、それによって生じる差別や不利益が問題ということです。
ただ、差別や偏見がすぐになくならない以上、アウティングを防ぐことが今は大切という考えです。
『小学校高学年の頃に、私は自分が同性愛者かもしれないと「気づいた」』(P86)
これは、異性愛が前提の社会では、異性愛であることが当たり前だからこそ、異性愛には気づくことはないけれど、同性愛というのは「気づく」ものだと、著者自身の体験を振り返っています。
『どの程度であれば「公表済み」「オープン」なのかというと、その度合いは一概には決められるものではない』(P162)
“暴露”という言葉から想定される通り、アウティングというものの前提は、本人が秘密にしているということがあります。ここで難しいのは、秘密にしているかどうかは、相手によって異なるため、秘密の度合いがわかりにくいというのが現実問題としてあります。
感じたこと
アウティングに関しては、企業向けの研修やeラーニングでは最も強調して伝えてほしいというリクエストをもらうケースが多いです。パワハラ防止法にも明記されていることもあり、それだけ企業の関心も高いといえます。
アウティングに関しての裁判事例や労災事例なども少しずつ判断が出てきています。ただこれらはかなり明確にアウトな事例にとどまっており、職場内の判断が微妙な事例についてはまだまだ社会的コンセンサスはとれていないのが現状だと思います。
Nijiリクルーティングでは、企業向けの外部相談窓口サービスを提供していますが、そこに実際に寄せられた、職場におけるアウティング事例については、別の記事でご紹介しております。