先日、上場企業の役員の方から、コンプライアンスの観点からLGBTに関して自社の状況や取り組みについて課題を感じているというお話をお聞きしました。
ただ、課題を感じていると言いつつも、具体的にはどんなリスクがあるのか、またどう対応するのが良いかが分からないともおっしゃっていました。

このような悩みやご相談は、特に昨年のLGBT理解増進法制定以降、増えてきています。
そこで今回は、LGBTに関連するコンプライアンスについて考えてみました。

LGBTに関連する法令等としては次のようなものがあります。

  • LGBT理解増進法(2023年)・・・企業にLGBTの理解増進に関する取り組みを義務付ける。具体的には研修などの啓発活動や、相談窓口の設置など。
  • パワハラ防止法(2020年)・・・LGBTに関連するハラスメントをパワハラと位置づけ、その防止を企業に義務付ける。アウティング(セクシュアリティに関して本人の同意のない暴露)や差別的発言などがパワハラに該当する。
  • セクハラ指針(2017年 厚労省通知)・・・性的指向、性自認に関わらずセクハラの対象となることを明記する。
  • 公正な採用選考の基本(厚労省)・・・選考時にLGBTを排除しないことを明記する。

これらの法令等は基本的に努力義務であり罰則がないのですが、場合によっては行政指導や社名公表のようなペナルティはあります。また民事上の損害賠償などの責任を負う可能性もあります。
さらに法的な責任を負わなかったとしても、企業の対応によってはブランドが傷つくレピュテーションリスクも考えられます。

次に実際にあった係争やトラブル事例を簡単にご紹介します。

  • トランスジェンダーの職場のトイレの使用制限に関して、制限が違法(職場環境配慮義務違反)であるとの判断が最高裁で示された。
  • トランスジェンダーの社員に対して、上司からの暴言などハラスメント行為を適切に対応しなかったとして、職場環境配慮義務違反で企業が提訴され、損害賠償金を支払う。
  • 緊急連絡先として同性パートナーの存在を企業に提出したところ、上司が職場でアウティングをしたことで働きにくくなり、最終的には精神疾患を患い、労災認定をされた。
  • 性別変更の事実を企業側がアウティングをしたことで、職場で中傷をうけ、精神障害を発生したために、企業に損害賠償を求める訴えを起こし、企業側は解決金を支払う。(労災認定)
  • トランスジェンダーに関する翻訳書が、差別扇動的という批判を受けて、刊行を中止することになった。
  • 公式Twitter(X)にて、同性愛嫌悪的な言葉を面白おかしく使用したことで炎上し、謝罪をした。
  • 国際カミングアウトデーにLGBTへの無理解なツイートをしたということで炎上し、謝罪をした。

このように、実際に裁判になるケースや会社として(場合によっては社長が)謝罪をするというケースまでさまざまな対応を求められている事例があります。

では、企業には何が求められるのでしょうか?

大きく二つのアプローチが大切だと考えています。
・従業員一人ひとりの知識を高め、意識を醸成する
・企業として、適切な対応(判断)が取れるようにする

職場内のアウティングなどのトラブルも、営業や広告などの各現場での判断も、基本的には従業員一人ひとりの知識と意識の問題になります。
これに関しては、一朝一夕では変わらないので、企業としては研修をはじめとした啓発活動を継続的に実施していくことが大切になります。

一方で、何かのトラブルがあった場合に適切な対応(判断)が取れるようにしておくことも重要です。人事部門やダイバーシティ担当の方にとっては難しい対応になるかもしれませんが、訴訟や炎上に至るような事態の悪化を防ぐためにも大切な部分です。

具体的な取り組みに関しては、企業のおかれている状況やさまざまな取り組みの中での優先度合いもあるので、個社ごとに違いがあり、一概には言えません。
まだ取り組みがあまり進んでいないという企業は、このようなコンプライアンスの観点からもLGBTに関する取り組みの必要性を考えてみるというところから始めてはいかがでしょうか?