4月の入社式を目前に控えた3月。期待と不安が入り混じるこの時期に、LGBT当事者の中には「自分をどこまで職場で開示するか」という悩みを抱える人もいます。
企業としての制度や方針が整っていても、カミングアウトをしたら実際の現場でどう受け止められるかは分からない——そんな見えない不安が、選択を迷わせます。

今回は、大学では自然にカミングアウトして過ごしてきたものの、就職活動をきっかけに“言わない自分”を選び始めたHさん(ゲイ)が、入社を半月後に控えた今、揺れている気持ちについての体験談です。

 

私はゲイです。大学ではそのことを特別に隠すことなく過ごしてきました。
仲の良い友人には自然に話していましたし、恋愛の話も特別なものではありませんでした。
誰かに強く否定された経験があるわけでもなく、自分の一部として受け入れられている感覚がありました。

けれど就職活動が始まった途端、その感覚は少しずつ変わっていきました。

面接では、できるだけ「無難な自分」を意識するようになりました。
「休日は何をしていますか」と聞かれて、頭に浮かぶのは恋人と過ごした時間なのに「友人と出かけます」と言い換えていました。
誰かに指示されたわけでもありません。
ただ「言わない方がいいかもしれない」と自分で線を引いていました。

内定先はIT系の企業で社員数は数百人規模です。
説明会では「多様性を大切にしている」と繰り返し話されていて、ダイバーシティ推進のページにはLGBTに関する取り組みも掲載されていました。
社内での勉強会や、パートナーシップ制度に関する記述もあり、少なくとも“理解しようとしている会社”ではあるのだと思いました。

インターンに参加したときも、雰囲気は悪くありませんでした。
社員同士の距離は近く、フラットに意見を言い合う空気がありました。
ただ、その中で自分のことを話せたかというと、答えは微妙です。
雑談の中で恋愛の話題が出たときも、自分のことは話さず、笑ってやり過ごしていました。
「この会社なら大丈夫かもしれない」と思う気持ちと、「それでもやっぱり様子を見たい」という気持ちが、同時にありました。

本当は隠したいわけではありません。
むしろ自分のことを自然に話せる方が楽だということは、大学生活で知っています。
ただ「知られた後にどう見られるのか」がわからないし、怖いとも思います。
今までと同じように接してもらえるのか、それともどこかで距離ができるのか。
その答えが見えないまま、新しい環境に入っていくことに慎重になっている自分がいます。

入社まであと半月です。同期と顔を合わせる機会もこれから増えていくはずです。
仲良くなりたいと思う反面、この距離感をどうするのかを考えてしまいます。
最初から話すのか、それとも流れに任せるのか。どちらが正しいのかはわかりませんし、そもそも正解があるとも思っていません。

入社してみて関わる人たちと話して、その中で少しずつ判断していけばいいのかもしれません。
無理に最初からすべてを決めなくてもいい、そう思うことで、少しだけ気持ちが軽くなります。

期待と不安は、どちらも消えることはありませんが、その両方を抱えたまま、この新しい環境に足を踏み入れる準備をしています。

 

入社を目前に控えたHさんの揺れは、「カミングアウトするかどうか」という単純な選択ではなく、職場での関係性や空気をどう受け止めるかという繊細な問題でした。
制度や企業の姿勢が整っていても、それが自分にとって安心できる環境かどうかは、実際に働く中でしか見えてこない部分もあります。

最後に、Hさんは『「カミングアウトをするかどうか」を決めるよりも、「職場や周りの人をどう感じるか」を大切にしたい』と話してくれました。