「LGBTについての社内研修を実施しても、なかなか職場で理解が深まりません」
企業の人事担当者から、こうした相談を受ける機会が増えています。
LGBTやSOGIに関する基本的な知識を社員に伝えることは、企業の取り組みの第一歩として大切です。
研修を実施した後のアンケートでは、次のような声をもらうことも多いです。
「LGBTとは何かを初めて知った」
「性的指向と性自認の違いが分かった」
「アウティングが問題になることを知った」
もちろん、こうした知識は必要です。
しかし、LGBT研修において本当に大切なのは、知識を増やすことだけではなく、その知識をきっかけに、一人ひとりの意識が変わることではないでしょうか。
例えば、「性的指向は人それぞれです」という知識を得たとします。
それだけで、翌日から職場での言動が変わるでしょうか。
「彼女はいるの?」と聞いていた人が、相手の性的指向を決めつけないために「パートナーはいるの?」という聞き方に変わるかもしれない。
一方で、そもそも恋愛やパートナーの有無を聞く必要があるのか、と考えることもできます。
「LGBTの人も職場にいる」と知っていても、目の前の同僚については無意識に「異性愛者だろう」と考えてしまうかもしれません。
こうした、本人が意識していない思い込みやものの見方には、アンコンシャス・バイアス(無意識の先入観)も関係しています。
LGBTやSOGIについて学ぶことの難しさは、単に新しい知識を覚えれば終わる問題ではないところにあります。
私たちは日常生活の中で、「男性はこう」「女性はこう」「結婚している人はこう」「恋人がいるなら異性だろう」といったさまざまな前提を持っています。
その多くは、本人に悪意があるわけではありません。
だからこそ、知識だけでは変わりにくいのです。
研修で目指したいのは、「LGBTについて詳しい社員」を増やすことだけではありません。
「自分は、知らないうちに何かを決めつけていないだろうか」と、一度立ち止まって考えられる社員を増やすこと、そして、その気づきを日常の行動につなげることです。
例えば、研修の中で「カミングアウトされたらどう対応するか」というケースを考えてみます。
「大切なことを話してくれてありがとう」と受け止めることを知るだけではなく、「自分だったら最初に何を聞くだろう」「その質問は本当に必要だろう」と考えてみる。
あるいは、「職場ではどのような言葉を使っているだろう」と振り返ってみる。
こうした経験があって初めて、知識が「自分の問題」としてつながっていきます。
その意味で、LGBT研修は、「知識を伝える研修」から「自分自身について考える研修」へと変わっていくことが重要なのではないでしょうか。
「知識を入れることがゴールなのではなく、知識によってこれまでの自分の見方を問い直してもらう」
そこに研修の大きな役割があると考えています。
研修を受けたその場で「分かった」と思って終わるのではなく、翌日、職場で誰かと話したときに、「あれ、この言い方でいいのかな」と少し立ち止まってもらえる。
その小さな変化こそ、研修の大切な成果の一つだと思います。
私たちが企業向けのLGBT・SOGI研修を設計するときにも、こうした点を大切にしています。
一方で、ここで忘れてはいけないのが、基礎知識を繰り返し学ぶことの大切さです。
研修を一度受けたからといって、すべての知識が身につくわけではありません。
研修直後は「よく分かった」と思っていても、時間が経つと、言葉の意味や具体的な対応を忘れてしまうこともあります。
また、短時間の研修では、その場では理解したつもりでも、実は理解が十分に深まっていないこともあります。
そもそも身近に感じられずに、最初から自分に関係することとして受け止められていないケースもあります。
だからこそ、基礎的な知識については、年に一度だけ実施して終わりにするのではなく、繰り返し触れる機会をつくることも重要です。
例えば、全社員向けの基礎研修を定期的に行いながら、社内報やイントラネットなどで関連する情報を発信したり、管理職にはより具体的なケースを扱う研修を行ったり、新入社員には入社時に基礎を学んでもらったりする方法が考えられます。
こうした繰り返しによって、知識が少しずつ定着し、さらにその知識をもとに自分の意識や行動を振り返る機会も増えていきます。
つまり、「知識か、意識か」ではなく、意識を変えるための土台として知識を繰り返し学び、意識を変えて、行動を変えることにつなげていくことが大切なのだと思います。




